車に使う金属は、全部まとめて「鉄」で済むでしょうか?軽くしたい、曲がりにくくしたい、壊れにくくしたい。部品ごとに欲しい性質が違うので、材料も使い分けています。
壊れにくさ、変形しにくさ、表面の硬さは違う
材料を比べるときは、重さだけでなく、力を受けたときの変形や壊れ方、熱への対応などを見ます。鋼、鋳鉄、アルミ合金、チタン合金は、それぞれ性質や作りやすさ、価格などが違います。
特に、変形しにくいことと、壊れにくいことは同じではありません。前者が剛性、後者に関わるのが強度です。また、同じ材料でも形や厚みが変われば、部品全体としての重さや丈夫さも変わります。
「永久的な変形」は、力を離しても元の形に戻らなくなることです。力をかけているときの変形しにくさと、戻らなくなったり壊れたりするまでの強さを分けて考えます。
- 強度:力が加わったとき、永久的な変形や破断にどこまで耐えられるかを示す性質です。
- 剛性:力に対する変形しにくさです。部品では素材だけでなく、厚さや断面形状も大きく影響します。
- 硬さ:表面への押し込みなどに対する抵抗です。摩耗への強さを考える手がかりになりますが、硬いほど割れにくいとは限りません。
- 靭性(じんせい):破壊に至るまでにエネルギーを吸収する粘り強さです。
何度も力を受けたときの丈夫さ、さびへの強さ、熱や電気の伝えやすさ、加工と接合のしやすさも必要です。全部で一番の金属があるわけではないので、部品の仕事に合わせて使います。
ボルトくん
高い金属を使えば、何でもよくなるの?
ハグルマ先生
必要な性質に合うかが大切です。価格の高い材料が、すべての場所で最適とは限りませんよ。
鋼は、ボディや歯車に合わせて性質を調整できる

Ennepetal産業博物館のVW・Audi用クランクシャフト展示。鍛造後に余分な部分を除いた段階の例で、軸受面の最終仕上げ品とは区別します。Ennepetal Industrial Museum VW-AUDI crankshaft.jpg — Arnoldius / 出典 / CC BY-SA 4.0
車の「鉄の部品」は、純粋な鉄の塊とは限りません。よく使うのが「鋼」で、鉄に炭素やほかの元素を加え、中の組織を調整した材料です。含める成分や作り方で、硬さや粘り強さなどが変わります。鉄なら全部同じ、というより、使う場所に合わせた配合や仕上げがあるんです。
ボディ用鋼板と高張力鋼板
外側のパネルには、形を作りやすいことや表面のきれいさが必要です。骨格には、力を受け止める強度や、衝突時のつぶれ方も求められます。高張力鋼板、通称ハイテンは、高い強度を使い、必要な性能を保ちながら薄くするための材料の一つです。
日本製鉄の自動車用鋼板も、材料、設計、作り方を組み合わせて、軽さと安全性を目指すと説明しています。強い鋼に替えたから、同じ割合で曲がりにくくなるとは限りません。強度と剛性は別だからです。車体全体での働きはモノコック構造の解説につながります。

Port Kemblaで撮影された鋼板コイル。薄い鋼板は巻いた形で扱われます。写真の鋼種や強度区分を示す資料ではなく、板材の姿を知るための例です。Steel Coils at Port Kembla.jpg — JustARandomEditor123 / 出典 / CC BY-SA 4.0
歯車・軸・ばねに使う鋼

クランクシャフトの実物。軸は形状や製法も含めて設計します。この写真だけで鋼種、鋳造・鍛造、熱処理を確定していません。Crankshaft — Alex Kovach / 出典 / CC BY 2.0
歯車や軸では、表面は減りにくく、中は粘り強くしたい場面があります。ばねは、何度も変形しても壊れにくいことが大切です。クロムやモリブデンなどを加え、加工や熱処理を組み合わせて、必要な性質を作ります。
ステンレスも鉄系の材料です。クロムなどでさびへの強さを持たせ、排気系を含むいろいろな場所に使います。ただし、どのステンレスも同じくらい熱やさびに強いわけではありません。
ボルトくん
ハイテンにしたら、同じ形でもその分曲がりにくくなるの?
ハグルマ先生
高い強度を使える材料ですが、剛性が同じ割合で上がるわけではないんです。断面の形やつなぎ方も合わせて設計しますよ。
鋳鉄は、中の黒鉛の形でも性質が変わる
鋳鉄も鉄が主成分で、一般には鋼より炭素を多く含みます。型に流して作る部品に使いますが、「型に流した金属なら全部鋳鉄」ではありません。アルミも鋳造できますし、鋼を鋳造したものは鋳鋼です。
鋳鉄は、中にある黒鉛の形や組織で性質が変わります。薄い片のような黒鉛の「片状黒鉛鋳鉄」と、丸い黒鉛の「球状黒鉛鋳鉄」では、強さや粘り強さが違います。プロテリアルの球状黒鉛鋳鉄製品は、足回りなどに使う材料の例です。
ブレーキディスクにも鋳鉄が使われます。Bremboのフローティングディスクは、鋳鉄の摩擦面と、アルミの中心部を組み合わせたものです。同じ部品でも、触れて止める部分と、中心の部分で、材料を使い分けるんですね。
ボルトくん
型に流して作ったら、どの金属も鋳鉄なの?
ハグルマ先生
鋳鉄は材料の名前で、鋳造は作り方なんです。アルミや鋼も、型に流して作れますよ。
アルミニウムは、軽さを生かす形と製法を選ぶ

アルミニウム・セリウム合金を、3Dプリントした鋳型で成形した自動車用シリンダーヘッドです。外観だけで、ほかのアルミ部品と強度を比較することはできません。Automotive cylinder head cast from aluminum cerium alloy in a 3D printed mold (49712746442).jpg — Oak Ridge National Laboratory / 出典 / CC BY 2.0。表示用に縮小・WebP変換。

積み込まれたアルミ地金の実物例。この外観だけで合金の成分や、自動車向けの用途・強度を判定できません。Aluminum ingots loaded on truck.jpg — Fumikas Sagisavas / 出典 / CC0
アルミは鉄より密度が低く、同じ体積なら軽くなります。車の部品では、必要な強さと加工のしやすさを得るため、ほかの元素を加えたアルミ合金がよく使われます。
UACJの解説は、エンジン、変速機、ホイール、パネル、フレームへの用途を紹介しています。板をプレスする、型へ流す、押し出して同じ断面を長く作るなど、部品によって作り方も変えます。
鋼の部品を、同じ形のアルミへ替えるだけでは、必要な性能を得られるとは限りません。厚さ、断面、つなぎ方まで設計が必要です。ホイールの素材と製法も、材料と作り方の両方が性能に関わると説明しています。
ボルトくん
同じ形のアルミにしたら、軽くて性能も同じになるの?
ハグルマ先生
材料だけを替えても、同じ性能とは限らないんです。厚さ、断面の形、接合方法まで合わせて考えますよ。
マグネシウム・チタン・銅は、得意な働きが違う
マグネシウム合金
マグネシウム合金は、軽さを生かしてケース類や内装の骨組みなどに使います。豊田合成の軽量ステアリングホイールの技術資料も、芯の金属にアルミやマグネシウム合金を使う例です。必要な強さと、どんな形に変形してよいかに合わせて設計します。
チタンとチタン合金
チタンは、軽さ、強さ、さびへの強さを生かし、一部の排気系やエンジン部品などに使います。日本製鉄の自動車向けチタンも、マフラー用とエンジン部品用を分けています。熱い場所での性能も材料の種類で違うので、「チタンなら全部に使える」とは限りません。
銅と銅合金
銅は、電気と熱をよく伝える性質を使います。三菱マテリアルの自動車用途の紹介には、配線の端子やジャンクションボックスの部品などが紹介されています。電動車で大きな電流を扱う部分にも大切です。なお「非鉄金属」は、鉄が主成分ではない金属の分類で、軽い金属だけの名前ではありません。
| 材料の例 | 注目する性質 | 用途を読むときの注意 |
|---|---|---|
| 鋼 | 強度、加工性、接合、コスト | 鋼種と熱処理で性質が変わる |
| マグネシウム合金 | 軽さ、成形、耐食対策 | アルミニウム合金と同じ扱いにはしない |
| チタン合金 | 重さ当たりの強さ(比強度)、さびにくさ、熱い場所で必要な性能を保つ性質など | 全てのチタン製品が同じ特性ではない |
| 銅・銅合金 | 電気・熱を伝えやすい性質など | 導電性と強度の両方を見る |
ボルトくん
非鉄金属って、全部鉄より軽いってことなの?
ハグルマ先生
鉄が主成分ではない、という分け方なんです。軽さを使うものもあれば、銅のように電気や熱を伝えるために使うものもありますよ。
熱したり表面を処理したりして、欲しい性質を作る
鋼の「焼入れ」は、適切に熱してから冷やし、中の組織を変えて硬くする処理です。「焼戻し」は、その後にもう一度熱して、硬さと粘り強さなどを調整します。日鉄SGワイヤの熱処理の解説も、この組み合わせです。「焼なまし」は、柔らかくしたり組織を調整したりするために行います。
歯車などには、浸炭や窒化で表面を硬くする方法もあります。表面は摩耗に強く、中は必要な別の性質にする工夫です。めっきや塗装は、表面を覆ってさびなどを防ぐもので、中の組織を変える熱処理とは違います。
温度と手順は、材料と欲しい性能によって変わります。修理で勝手に熱したり溶接したりすると、元の性質を変えることがあります。車両メーカーが指定する方法で修理する必要があります。
ボルトくん
歯車は、表面も中も同じくらい硬くするの?
ハグルマ先生
表面と中で、欲しい性質を分けることがあるんです。浸炭や窒化で表面を硬くする方法も、材料と仕事に合わせて選びますよ。
軽い素材に替えても、部品の重さは単純に決まらない
同じ体積ならアルミは鋼より軽く、UACJは鉄のおよそ3分の1の比重と説明しています。ただし、「同じ形に替えれば、性能を保ったまま重さだけ3分の1」とは限りません。
同じ長さと太さの棒へ同じ力をかけたとき、どれくらい伸び縮みしにくいかに関わる性質を「ヤング率」と呼びます。アルミと鋼では、これも違います。変形を抑えるには、厚くしたり、断面を箱形にしたりして形で支える工夫も必要です。日本アルミニウム協会の比較も、材料の性質と断面を合わせて剛性を見る考え方を示しています。
さらに、つなぎ目、腐食を防ぐ方法、製造と修理の方法も考えます。材料の重さだけより、「その形で必要な仕事ができるか」を見ると、車の軽量化を理解しやすくなります。
ボルトくん
アルミなら、同じ部品を鉄の3分の1の重さで作れるの?
ハグルマ先生
3分の1は、同じ体積での比較なんです。必要な強さと曲がりにくさを満たす形や厚さを選ぶので、部品の重さは単純には決まりませんよ。
よくある疑問
鋳鉄と鋳造は同じ言葉?
鋳鉄は材料、鋳造は型に流して作る方法です。アルミや鋼も鋳造できます。
鍛造なら、どの鋳造品よりも必ず強い?
必ずとは言えません。材料、形、作り方、熱処理、比べる条件で変わるので、製法の名前だけで別の部品の強さは順位づけできません。
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