ブレーキの円盤には、溝付きや穴付きのものがあります。見た目は強そうですが、穴を増やせば増やすほどよいのでしょうか?表面の加工と、中の風の通り道を分けて見ていきましょう。
スリットは溝、ドリルドは穴を設けたローター

Chevrolet Bolt EVのローター。円盤表面の形を比べるための例で、Porscheとの制動性能を同じ条件で比較した写真ではありません。2020 Chevrolet Bolt EV front disc brake 1.jpg — 4300streetcar / 出典 / CC BY 4.0
ブレーキローターは、車輪と一緒に回り、パッドに挟まれて減速する円盤です。表面に溝を入れたものがスリット、穴を設けたものがドリルドです。表面の状態や、ガスや水などの扱いに関わります。
一方、円盤の内側に風の通り道を持つのがベンチレーテッドという構造です。表面の穴や溝とは別の仕組みなので、「穴が見えるから内部も同じ」とは限りません。まずは、表と中を分けて考えるのが近道です。
パッドが触れる表面の形で見ると、主に次の三つに分けられます。
- プレーン:溝や穴のない、平滑な摩擦面
- スリット:筋状の溝を設けた摩擦面
- ドリルド:複数の穴を設けた摩擦面
溝と穴の両方がある製品もあります。ただし、「たくさん増やせば、その分よく止まる」というものではありません。位置と大きさを含めて、一つの製品として設計しています。

スリットローターを説明するCADモデル。円盤の摩擦面には細長い溝、側面には内部の通風路があります。中央のボルト用の穴は、摩擦面のドリルド加工とは別です。市販の特定製品の寸法を示す図ではありません。Ventilated Straight Slotted Brake Rotor.jpg — Atharv Chandel / 出典 / CC BY 4.0
ボルトくん
穴付きなら、中まで風が通るってことじゃないの?
ハグルマ先生
表面の加工と、円盤内部の構造は別です。熱の逃げ方も強さも、全体の設計で変わりますよ。
溝や穴は、水やガスを逃がす助けになる
パッドとローターの間に水があったり、高い負荷でガスが出たりするとき、穴や溝は逃げ道になります。また、穴や溝の縁がパッドに触れることで、パッド表面の状態や、踏み始めの感触が変わることもあります。表面に加工するのは、格好のためだけではありません。ただし、それだけでブレーキ全体の性能が決まるわけでもありません。
ここでいうガスは、エンジンの排気ガスではありません。パッドなどが高温になると、その材料や使い方によって接触面に生じることがあるガスの話です。
BremboによるXtraとMaxの比較も、ドリルドとスリットの製品について、水の膜やガスへの対応と、パッド表面への作用を説明しています。ただし、そのメーカーの製品の比較です。他社も含め、全部同じ性能とは考えないようにしましょう。
実際の効きは、パッドの材料と温度にも左右されます。ローターを替えてどれくらい変わるかは、組み合わせる部品と使い方によるんです。
ボルトくん
穴や溝って、冷やすためだけじゃないんだね!
ハグルマ先生
水やガスを逃がし、パッドの表面に働きかける役目もあるんですよ。ローターとパッドを一緒に見てみましょう。
熱を受け止める量と、外へ逃がす働きは別
ブレーキは、パッドと円盤をこすり合わせ、車が動いているエネルギーを熱に変えて減速します。だから円盤も熱くなり、受け止めた熱を外へ逃がす必要があります。
ローターは、減速で生まれた熱を、まず一時的に受け止めます。同じ材料に同じ熱が入るなら、受け止める質量が少ないほど、温度が上がりやすくなります。これが、熱をためられる量である「熱容量」を考える理由の一つです。
一方、冷却は外の空気へ熱を逃がすことです。中のフィン、回転、周りから入る空気、形でも変わります。穴を開けると重さと表面も変わるので、穴の有無だけで、熱容量と冷却の両方を評価できません。
直径や厚さ、材料が違う製品を比べても、穴だけの効果は取り出せません。何度も踏むときの余裕は、パッド、ローター、冷却、車の重さと速度を合わせて考えます。
ボルトくん
穴を増やせば、熱にも強くなるんじゃないの?
ハグルマ先生
冷え方だけでなく、熱を受け止める質量と強度も変わるんです。数だけでは、続けてブレーキを使うときの余裕は分かりませんよ。
比べたいのは放熱、亀裂、パッドへの影響
穴があれば、いつでもよく冷えるの?
ドリルドの穴には、熱を逃がすねらいもあります。ただ、冷え方は直径、厚さ、中の通風路、材料、走行風でも変わります。穴があれば必ず何度下がる、という共通の数字はありません。
熱でブレーキの効きが落ちるフェードも、穴や溝でガスを逃がせば完全に防げるわけではありません。パッドの性質と、使う温度も含めて選びます。
| 見る項目 | 確認すること |
|---|---|
| 表面の穴・溝 | 製品の目的、摩耗、ひび、メーカーの使用条件 |
| 内部の通風路 | ベンチレーテッド構造と冷却空気の流れ |
| パッド・車両 | 材質、温度、質量、速度、連続制動の条件 |
ドリルドは割れやすいの?

市販車に組み込まれた穴あきの実例。画像だけでは使用履歴や亀裂の有無を判定せず、メーカー基準に沿った点検が必要です。Porsche-Scheibenbremse rechts vorne, 4.jpeg — Renardo la vulpo / 出典 / CC BY-SA 4.0
Bremboは自社製品の比較で、レースのような極端な使い方では、スリットに機械的な強度の利点があると説明しています。ただ、それだけで「公道のドリルドは危険」「スリットなら割れない」とは言えません。
どの形でも、摩耗と亀裂の点検は必要です。穴の周りに亀裂があっても、写真だけで使えるか決めず、整備工場でメーカーの基準に合わせて確認してもらいましょう。
パッドの減りや音は変わるの?
穴や溝がパッドに触れるため、プレーンから替えると、減り方や音が変わる場合があります。ただ、「スリットは長持ち」「ドリルドは早く減る」と、全部に当てはめることはできません。
効きだけでなく、合うパッドと用途、音や摩耗についての説明も確認します。パッドの残量の見方はブレーキパッドの交換時期と点検の目安が参考になります。
ボルトくん
見た目は好きだけど、音やパッドの減りも変わるの?
ハグルマ先生
表面の形がパッドに作用するので、変わる場合はあるんです。形の名前だけで決めず、その製品と対応パッドの説明を確認しましょう。
ベンチレーテッドは、中に空気の通り道がある構造

大型ブレーキの実物展示。内部の通風路を確認するには摩擦面の表側だけでなく、円盤の縁や断面を見ます。寸法・材質はこの写真だけから決めていません。Stopping power (32804787015).jpg — Paulius Malinovskis from Uppsala, Sweden / 出典 / CC BY 2.0
ベンチレーテッドローターは、二つの摩擦面の間に、空気の通るすき間があります。中を流れる空気で熱を逃がします。一方、ソリッドには、そのような中の通り道がありません。
この分け方は、表面に穴や溝があるかとは別です。表面が平らなプレーンでも、中がベンチレーテッドのものがあります。Bremboのベンチレーテッドローター解説は、中の通路にフィンや柱状の支えを使う構造を紹介しています。
ボルトくん
表面に穴がなければ、ベンチレーテッドじゃないの?
ハグルマ先生
分けるのは、内部に空気の道があるかどうかなんです。穴のないプレーンにも、ベンチレーテッドはありますよ。
車両への適合と使う場所から選ぶ
街乗り中心なら、純正と同等の適合品を基準に、必要な性能と維持費を考えると選びやすくなります。見た目を楽しむのもよいですが、穴や溝だけで止まる距離が短くなるとは期待しないようにしましょう。
サーキットは、熱い状態で何度もブレーキを使います。公道用を見た目だけで選ばず、メーカーの用途、合うパッド、点検と交換の基準を確認し、ブレーキ全体で相談します。
車名だけでなく、年式、型式、グレード、ブレーキの仕様も調べます。同じ車名でも、ローターの寸法や組み合わせる部品が違うことがあります。
回転方向の指定も大切です。スリットの傾きでは左右が分からず、中の通風路で向きが決まる製品もあります。DIXCELの回転方向に関するQ&A(公式製品資料)も、製品による取り付け方向の違いを説明しています。
ボルトくん
溝の向きを見れば、右用か左用か分かるんじゃないの?
ハグルマ先生
見た目だけでは分からない製品もあるんです。内部の通風路も関わるので、製品の取り付け方向を守ってくださいね。
どの形状でも、厚さと亀裂の点検が必要
ローターも、パッドと一緒に減ります。指定の使用限度より薄くないか、亀裂や偏った減り方がないかを確認します。溝の見え方で摩耗を判断できる製品もありますが、全部に使える方法ではありません。
DIXCELの公式製品資料は、摩耗と亀裂の点検に加え、急な温度変化で内部に亀裂が出るおそれを説明しています。走った直後の熱いローターに水をかけるなど、急に冷やす扱いは避けましょう。
今のローターへ、自分で穴や溝を作ることも避けてください。市販品は、位置や強度まで考えた設計です。適合と交換は、整備工場へ相談しましょう。
ボルトくん
今の円盤に溝を入れたら、同じものになるの?
ハグルマ先生
自分で追加加工するのはやめてくださいね。市販品は、場所や強度まで含めて設計されていますよ。
よくある疑問
穴のないローターはソリッド?
表面が平らでも、中に空気の道があるベンチレーテッドの場合があります。表面の形と中の構造は、別に分けます。
今のローターへ穴や溝を追加してよい?
市販品と同じにはなりません。自己加工せず、車と用途に合う製品を整備工場と確認してください。
関連記事
車のブレーキの仕組み|ディスク・ドラムの構造と違い/ブレーキパッドの交換時期|残量・偏摩耗・異音の確認/ホイールの構造とサイズ表示|PCD・インセット・製法の違い
参考資料
- Brembo:Xtra drilled vs Max slotted discs
- Brembo:フィン式と柱状式の通風構造
- DIXCEL:回転方向の指定(公式製品資料・PDF21枚目)
- DIXCEL:摩耗・亀裂の点検(公式製品資料・PDF1枚目)
- Brembo:Minimum brake disc thickness
- JAF:下り坂でブレーキを酷使すると効きが悪くなる理由
Brembo:XtraとMaxの選び方。関連する仕組みをメーカーの資料でも確認できます。




