最近の車は、停車中でも軽い力でハンドルを回せます。それを助けるパワーステアリングには、どんな方式があるのでしょうか?
油圧式・電動油圧式・電動式は、力の伝え方が違う
- 油圧式:一般的にはエンジンでポンプを駆動し、油圧で操舵を補助します。
- 電動油圧式:モーターで油圧ポンプを駆動します。最終的に操舵を助けるのは油圧です。
- 電動式(EPS):モーターの力を減速機などを介して軸やラックへ伝えます。操舵補助用の油圧回路は使いません。
電動油圧式もEPSも電気を使いますが、補助力を生む仕組みは違います。電動油圧式にはフルードがあり、EPSには操舵補助用の油圧回路がありません。自分の車の方式によって、点検する項目も変わります。
ボルトくん
電動油圧式も、電動パワステも、同じものじゃないの?
ハグルマ先生
電動油圧式はモーターでポンプを回し、油圧で助けます。EPSはモーターの力を機構へ伝えるので、補助用の油圧回路を使いません。
油圧式は、圧力差でピストンを押す

Citroën C15の油圧式ステアリング。外部シリンダーを使う例です。Boschの商用車用ボールねじ式とは、操舵ギヤの形式と部品配置が違います。Direction assistée Citroen C15 First 2005.jpg — Kakoula10 / 出典 / CC BY-SA 4.0。
油圧式では、ポンプがフルードを送り、バルブが流れを切り替え、シリンダーが補助力を生みます。このほかに配管やリザーバータンクなどが必要です。エンジン駆動のポンプは、ベルトなどを介して回します。
ハンドルを回すと、その方向と加えた力に応じて制御バルブが液の通り道を変えます。シリンダーの左右に圧力差が生まれ、ピストンを押す力でラックなどの動きを助けます。左右どちらの油室を加圧するかは装置の配置によるため、図だけからすべての車に当てはめることはできません。
中立の状態ではフルードを戻す通り道を確保し、ハンドル操作に応じて必要な補助力を生みます。Boschの油圧式ステアリング解説でも、ロータリーバルブによる流路の切り替えと、ピストンへの油圧作用を説明しています。細部の構造は乗用車用と商用車用で異なります。
エンジンで回すポンプは、エンジンを止めると通常どおりには駆動できず、アシストの状態も変わります。ハンドルを物理的に回せる場合でも、いつもの力で安全に操作できるとは限りません。
ボルトくん
エンジンが止まっても、ハンドルを回せるなら平気なの?
ハグルマ先生
物理的に回せることと、安全に操作できることは別です。エンジン駆動の油圧式では補助の状態が変わるため、普段と同じには扱えません。
電動油圧式は、モーターでポンプを回す
電動油圧式は、油圧で操舵を助ける仕組みを残し、ポンプを回す役目をモーターに任せます。エンジン回転に直接依存せず、必要な状態に合わせてポンプの駆動量を変えられます。
モーターと制御装置のほか、フルード、ホース、シールなどの油圧系統も引き続き必要です。電動という名前でも、フルード漏れは起こり得ます。また、エンジン停止中に必ず補助が働くわけではなく、車両の電源状態と制御条件によって変わります。
ボルトくん
電動油圧式なら、オイル漏れの心配はないの?
ハグルマ先生
油圧で助ける部分は残っているので、フルードやホース、シールの点検は必要です。電動化されるのはポンプの駆動です。

電動油圧式パワーステアリングの展示用実物です。右側にモーターとポンプをまとめたユニットがあり、中央のラックに配管でつながっています。車両への搭載位置を写した写真ではありません。Elektro-hydraulische Servolenkung.jpg — Stahlkocher at German Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。
EPSは、センサーで確かめてモーターで助ける
EPSはElectric Power Steeringの略で、電気で操舵を助ける仕組みを意味します。モーターの力を操舵機構へ伝える方式です。補助量は、次の流れで決めています。
- トルクセンサーが、運転者がハンドルへ加えている力の向きと大きさを検出します。
- 制御装置が、操舵力や車速などの情報から必要なアシスト量を決めます。
- モーターを駆動し、減速機などを通じて操舵機構に補助力を加えます。
トルクセンサーが測るのは、軸に加わるねじりの力、つまり操舵トルクです。ハンドルなどの角度を測る舵角センサーとは、役割が違います。使う情報やセンサーの配置、制御の細部は車種ごとに異なります。
補助量を制御することで、低速では軽く、高速では適度な手応えを持たせやすくなります。車線維持支援などと連携することもできます。ただし、EPSが付いているだけで自動運転になるわけではありません。支援機能の有無や運転者が行う操作は、その車の装備と取扱説明書を確認してください。
モーターの力を加える場所にも違いがある

コラム側にモーターを組み合わせた例。ラックアシストやデュアルピニオン型の実物写真としては使っていません。EPAS power steering column.jpg — Samf4u / 出典 / CC BY-SA 4.0。
- コラムアシスト:車室内のコラム側に補助力を加えます。エンジンルームの配置に制約を受けにくい構成です。
- ピニオンアシスト:ステアリングギヤのピニオン側を補助します。別のピニオンをアシスト専用に使うデュアルピニオン方式もあります。
- ラックアシスト:ボールねじなどを用いてラックへ力を加えます。ラックと並行にモーターを置く構成などがあります。
ジェイテクトのデュアルピニオンEPSは、操舵側とアシスト側のピニオンを分け、搭載性と出力を確保する例です。どの方式がいちばんよいかは、名前だけでは決まりません。車両の重量、必要な補助力、搭載スペース、制御の設定まで考えて設計されています。
ボルトくん
ハンドルの角度が同じでも、助ける力は変わるの?
ハグルマ先生
操舵力や車速なども見ているため、角度だけでは決まりません。使う情報や補助の設定は車種によって異なります。
急に重くなったら、無理に走り続けない
ハンドルが重くなる原因は、一つではありません。タイヤ空気圧の不足、油圧系統の異常、電源やセンサー、機械部分の不具合などが考えられます。感触だけでポンプやモーターの故障とは決められません。
EPSには、停車中や極低速で長くハンドルを回し続けると、過熱を防ぐために補助を弱める車もあります。トヨタGR 86の取扱説明書にも、この現象が記載されています。ただし、これはその車の機能の説明です。急に重くなった理由を、すべて過熱保護で片付けてはいけません。
走行中に急に重くなった、引っかかる、車線を保ちにくい場合は、安全な場所へ停車して支援を求めてください。走行中に電源を切って直そうとしないでください。停車してから、警告表示と取扱説明書を確認します。症状が続く、繰り返す、警告灯が点灯する場合は点検を依頼しましょう。
ボルトくん
電源を切って入れ直せば、軽く戻るかな?
ハグルマ先生
走行中に試してはいけません。安全な場所へ停車してから警告と説明書を確認し、操舵しにくい場合は支援を求めてください。
点検する場所は、自分の車の方式で確かめる
油圧式と電動油圧式では、使うフルードの種類も、量を確かめる方法も車両の指定に従います。不足しているなら、補充だけで済ませず漏れの点検も必要です。似た色の油を足したり、指定のない添加剤を入れたりせず、取扱説明書や整備工場の案内に従ってください。
EPSは補助用の油圧回路を使わないため、パワステフルードの交換はありません。それでも機械部品や電気系統の点検は必要です。日常的にはタイヤの指定空気圧を確認し、いつもと違う操作感があれば点検時に伝えましょう。
ボルトくん
フルードのないEPSなら、点検もいらない?
ハグルマ先生
フルードの交換がないだけで、機械部分や電気系統の点検は必要です。タイヤ空気圧も確認し、操作感の変化を伝えてください。
アシストの軽さと、消費するエネルギーは別に考える
補助する力が大きいと、運転者は軽く回せます。しかし、その力を油圧やモーターで生むにはエネルギーが要ります。油圧ポンプをエンジンで回す方式では、直進中でも循環や機械抵抗による損失が生じます。
EPSでは、必要な補助量に応じてモーターの電流を制御できます。ただし、電気を全く使わないわけではありません。止まったままタイヤの向きを変える場面は負担が大きく、車種によっては温度保護が働きます。
軽く感じる設定と、路面の状態を伝える手応え、戻り方は同じ評価項目ではありません。方式名だけで運転感覚を決めつけず、制御と機械部品の組み合わせとして考えます。
ボルトくん
電動なら、軽く回してもエネルギーを使わない?
ハグルマ先生
モーターを動かす電気が必要です。必要なときに補助量を調整しやすい点と、消費がゼロであることは違います。
よくある疑問
EPSにパワステフルードを補充する?
操舵補助用の油圧回路を使わないEPSには、そのフルードはありません。電動油圧式にはあるため、方式を確かめます。
ハンドルが重くなったら必ずポンプの故障?
空気圧、機械部分、電源、制御の異常や保護作動も候補です。急な変化は感触だけで原因を決めず点検を依頼します。
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