エンジンを分解すると現れる、穴だらけの金属の本体。これがシリンダーブロックです。ただの重い塊にしては、ずいぶん込み入った形をしています。その穴にも、ちゃんと仕事があるんです。
シリンダーブロックは、動く部品を支えるエンジンの本体
シリンダーブロックは、エンジンの土台になる大きな部品です。中には、ピストンが往復する筒状の部分があります。この筒がシリンダーで、燃料を燃やす仕事は、その内側で行われます。
多くの乗用車用エンジンでは、下側で回転する軸も支えています。動く部品の位置がずれないように受け止めながら、冷却水やオイルの通り道も用意する。見た目どおり、なかなか責任の重い本体なんですね。
家なら、壁と土台をまとめたような役ですね。

東京オートサロン2006で展示されたSUBARU EJ20 WRC用エンジン。水平対向の気筒内にピストンを組み付ける場面です。SUBARU EJ20 WRC installing piston-pin.jpg — 160SX (talk) / 出典 / CC BY 3.0
上のヘッド、下のオイルパンと組み合わさる

BMC製エンジンの断面展示。中央にはピストンが並び、上側のヘッドと下側のクランク軸まわりにつながっています。bmc-cutaway — Victuallers; derivative background removal by Auge=mit and Scriptadd / 出典 / CC BY-SA 3.0
一般的には、上にシリンダーヘッド、下にオイルパンを組み合わせます。ヘッドは燃料が燃える部屋や空気の出入口を受け持ち、オイルパンは戻ったオイルを受けます。水平対向など、筒が横向きのエンジンでは、部品の向きや分け方が変わります。
ボンネットを開けて見えるプラスチックのカバーや、一番上のヘッドカバーは、ブロックではありません。外から見えるふたと、中の部品を支える本体は別です。
ボルトくん
穴がいっぱいあるけど、弱くならないの?
ハグルマ先生
必要な場所には厚みや補強を持たせています。穴の中を水やオイルが通るので、全部埋めればよいわけでもないんです。
中には、ピストン・冷却水・オイルのための場所がある
シリンダーボア:ピストンが往復する穴

Rover K18の実物。気筒の穴とその周囲が見える状態です。すべてのアルミブロックが同じ構造ではありません。rover-k18-block — Nibi / 出典 / Public domain
ピストンが入る筒状の穴や、その内側の直径を「ボア」といいます。穴なら開いていればよさそうですが、ここはピストンが猛烈な速さで往復する場所です。ピストンの周りには、筒の壁に沿って動いてガス漏れを抑える、細い金属の輪があります。これがリングです。丸さが崩れたり、表面が傷んだりすると、リングや油の膜がうまく働かず、こすれやガス漏れにつながります。穴一つにも、なかなか面倒な注文が付くんですね。
アルミの本体に、鋳鉄などで作った筒を入れるエンジンもあります。この筒がシリンダーライナーです。別の筒を入れず、穴の表面を加工するものもあります。本体の材質と、ピストンが動く面の材質が、同じとは限りません。
ウォータージャケット:冷却水の通り道

図のWがウォータージャケットです。シリンダーやヘッドの周囲にある緑色の部分が、冷却水を通す空間を示します。実車の流路形状はエンジンによって異なります。Four stroke engine diagram.jpg — User:Wapcaplet / 出典 / CC BY-SA 3.0
ウォータージャケットは、筒の周りなどに作った冷却水の通り道です。熱くなったところから熱を受け取り、冷却の装置へ運びます。「ジャケット」でも着せて暖めるのではなく、エンジンの温度を整えるための場所です。
水を大量に流せばOK、というほど単純ではありません。場所による温度の差、熱の逃げ方、水の通りやすさを考えて作ります。また、冷却水の道と、部品を守るオイルの道は別になっています。
クランクシャフトを支える部分と、オイルの通路
クランクシャフトを支えるのが軸受です。軸受を収める穴の場所や形がずれると、軸が安定して回れません。下側を一体の部品で支えるエンジンもあり、ブロック一つだけで全部を支えているわけではありません。
本体の中のオイルの道から、軸受などへ油を送ります。いくらブロックが頑丈でも、油が届かなければ動く部品を守れません。流れはオイルの循環で解説しています。
ボルトくん
アルミのブロックなら、ピストンもアルミの壁をこすってるの?
ハグルマ先生
別の筒を入れたり、表面に加工したりすることがあるんですよ。本体には軽さ、中の面にはすり減りにくさ、と必要な性質が違うからなんです。

米陸軍の教材にあるオイルの流れです。OIL PUMPはポンプ、OIL PASSAGEは通り道、MAIN BEARINGはクランクを支える主軸受。油は主軸受からクランクの中を通って、コンロッド側へ届きます。実車の流れや、ろ過・戻り方はエンジンごとに違います。TM 9-8000 Figure 8-16 — Headquarters, Department of the Army, United States / 出典 / Public domain
アルミと鋳鉄は、何が違う?
| 材質 | 設計で生かす特徴 | 合わせて考えること |
|---|---|---|
| アルミニウム合金 | 軽さや熱の伝わりやすさ | 熱膨張、支持剛性、ボア面の耐摩耗性 |
| 鋳鉄 | 剛性や耐摩耗性を生かしやすい | 重量、鋳造・加工、熱の管理 |
「剛性」は、力を加えたときに変形しにくいこと。「強度」は、壊れにくさに関わる性質です。似て聞こえますが別の話なんですね。軽いアルミでも、厚さや補強、部品の固定方法を工夫して、必要な形を保てるようにします。[1]
鋳鉄は古い、アルミは新しい、と分けるだけでは分かりません。使い方、燃料が燃えたときの圧力、費用、加工のしやすさで選びます。今のディーゼルにも、アルミ製ブロックの例があります。[3]
ボルトくん
剛性が高いって、壊れにくいってことなの?
ハグルマ先生
剛性は「力を受けても形が変わりにくい」ということですよ。壊れにくさとは別です。材料だけでなく、厚みや補強の入れ方でも変わるんです。
穴の周囲をどう支えるかも変わる
上から見て、筒の周りの冷却水の空間が大きく開いているものを「オープンデッキ」、金属で多くつないで筒を支えるものを「クローズドデッキ」と呼びます。中間の形もあります。筒の上端を支える力、水の通り道、鋳造で作りやすいかのバランスです。名前だけで、どれくらいの過給(エンジンへ空気を押し込むこと)に耐えられるかまでは決まりません。

HondaヘリテージセンターのAccord用2.4L直列4気筒ブロック展示。気筒上端の周囲に、冷却水を通す空間が開いている様子が見えます。オープンデッキの形を実物で理解する例です。写真のブロックの年式や、許容する過給圧を画像だけで決めることはできません。Honda Heritage Museum (Marysville, Ohio) – Accord 2.4L inline 4-cyl aluminum engine block.jpg — Nheyob / 出典 / CC BY-SA 4.0
ライナーを使わない設計もある

内部でピストンが往復する筒状部品。写真だけでは乾式・湿式や適合エンジンを確定しないため、方式の断定には使いません。Zylinderbuchse.jpg — Stahlkocher / 出典 / CC BY-SA 3.0
日産のミラーボアコーティングは、厚い鋳鉄の筒を入れる代わりに、穴の内側へ鉄の薄い膜を作る技術です。別の筒を組み込む方法と、表面の薄い層に働いてもらう方法では、構造が違います。[2]
ただし、ライナーを使わないエンジンが全部同じ表面ではありません。材質や加工の方法が違えば、修理できる範囲も変わります。穴を削って広げたり、内面を整えたりする作業を、どれにも同じようにはできません。
ボルトくん
ライナーがなかったら、内側には何もしてないの?
ハグルマ先生
厚い筒の代わりに、表面の薄い層を使う方法もあるんですよ。ミラーボアコーティングがその例です。ライナーがないというだけでは、材料や直し方は分からないんです。
修理では、穴の形と表面をきちんと測る
冷却水が減る、オイルを多く消費する、圧縮が弱くなる。こうした症状はブロックや筒の内面が原因でも起きます。ただ、ホース、ヘッドガスケット、バルブなども候補です。症状だけで「本体にひびだ!」と決めるのは早いです。
分解して直すときは、穴がどれくらい丸いか、すり減っているか、部品を合わせる面が平らかなどを測ります。削れる範囲やライナーの交換方法も、エンジンごとに違います。大きな新品部品を買えば終わり、という作業ではありません。
ボルトくん
内側に傷があったら、削ってつるつるにすれば使えるの?
ハグルマ先生
傷のほかに、穴の大きさ、丸さ、表面の加工も調べる必要がありますよ。削ってよい範囲や、その後に使う部品はエンジンによって違うんです。
よくある疑問
ブロックとヘッドは、一つの部品なの?
一般的な乗用車では別の部品です。間にヘッドガスケットを挟み、ボルトなどでつなぎます。詳しくはシリンダーヘッドをご覧ください。
ライナーは、全部交換できるの?
全部が交換できるわけではありません。筒の組み込み方、修理用の部品があるか、メーカーの指定で変わります。乾式・湿式ライナーで違いを解説しています。
参考資料
- Motorservice:Reconditioning of Aluminium Engine Blocks。材質、ボア面、修理条件。
- 日産:ミラーボアコーティング。ライナーを薄膜へ置き換える例。
- Toyota:Avensis 2.2L D-4D(2005年)の公式発表。アルミ製ディーゼルエンジンブロックの実例。




