エンジンをかけるときに聞こえる「キュルキュル」。あれは、エンジンが腹を下している音ではありません。
セルモーターは、エンジンの最初の回転を手伝う装置

Zastava用のスターターです。大きな筒がモーターで、その上にマグネットスイッチがあります。形や中の構造は車によって違います。Magneton anlaser za Zastavu.jpg — Milicevic01 / 出典 / CC BY-SA 4.0
セルモーターは、止まったエンジンを回し始めるための小さな電動モーターです。一般的なガソリン車では、バッテリーから電気を受け取って動きます。燃料を燃やして回るエンジンにも、最初は電気のお手伝いが必要なんですね。
取り付けられているのは、エンジンと変速機のつなぎ目近くです。小さな歯車をエンジン側の大きな歯車にかみ合わせ、エンジンの軸を回します。エンジンが自分の力で動き始めたら、かみ合いを外して仕事を終えます。
止まったエンジンを回すには、部品同士のこすれや、空気を押し縮めるときの抵抗に負けない力が必要です。そこでセルモーターは、短い時間に大きな力を出せるように作られています。ずっと回し続けるための装置ではないんですね。[1]
エンジンと変速機が接する付近にある

Jeep/AMCの2.5Lエンジンを下側から見た写真。円筒状のスターターがエンジン側面に取り付けられています。展示用の仕上げが施された例で、全車共通の見え方ではありません。Jeep 2.5 liter 4-cylinder engine chromed s.jpg — Christopher Ziemnowicz (CZmarlin) / 出典 / Public domain
歯車式のセルモーターは、エンジンと変速機の境目あたりに付きます。小さな歯車を、フライホイールやフレックスプレートという円盤の外周の歯にかみ合わせるためです。車によっては、ボンネットを開けても見つけにくい場所にあります。

Opel A16XHT用のデュアルマスフライホイールとクラッチを切断した展示品。外周の歯は始動用スターターとかみ合う部分です。Zweimassenschwungrad und kupplung aufgeschnitten.jpg — Cschirp / 出典 / CC BY-SA 3.0
ボルトくん
エンジンがかかったあとも、ずっと回してるの?
ハグルマ先生
いいえ。始動のお手伝いが終わったら離れます。いつまでもつながっていたら、今度はエンジンにものすごい速さで回されてしまいますからね。
主な部品は「何をするか」で覚える

1:外枠、2:一方向クラッチ、3:回転子、4:磁力を作る界磁コイル、5:回転部へ電気を渡すブラシ、6:マグネットスイッチ。この形式の部品と配置を示しています。Automobile starter 2.JPG — Willdre 00:24, 8 February 2007 (UTC) / 出典 / CC BY-SA 3.0
| 部品 | 働き |
|---|---|
| 電動モーター | 電力を回転する力に変える |
| マグネットスイッチ(ソレノイド) | 歯車を動かす機構と、大電流用の接点を作動させる |
| ピニオン | エンジン側とかみ合う小さな歯車 |
| オーバーランニングクラッチ | エンジン側からモーターが無理に速く回されるのを防ぐ |
| 減速機構 | モーターの回転を遅くし、大きなトルクに変える。備えない形式もある |
ここで出てくる「トルク」は、軸を回そうとする力のことです。固い瓶のふたを道具でつかむと回しやすいように、歯車でも回しやすさを変えられます。ただし、力を増やす代わりに回転は遅くなります。歯車を入れたら、ただで力が湧いてくるわけではないんですね。
ボルトくん
一方向クラッチって、歯車を引っ込める部品なの?
ハグルマ先生
これは、エンジン側からモーターが速く回されすぎないように守る部品なんです。歯車を引っ込める仕事とは別ですよ。
見分けたいのは二つの流れです。電気はバッテリーから接点を通ってモーターへ届き、モーターが生む回転はピニオン、リングギアを経てクランクシャフトへ伝わります。電線の通り道と、歯車で力が伝わる道は別です。ソレノイドは、そのかみ合いと通電に関わります。
始動するときの動きを順番に見る
前の分解図では、6がマグネットスイッチ、2が一方向クラッチです。このあと説明する動きを、その部品の場所と合わせて見てみましょう。図は部品の並びを示しているので、実際に動いている瞬間を描いたものではありません。
① 指令を受けて、歯車をかみ合わせる
始動の指令が来ると、ソレノイドという部分に電気が流れ、電磁石が働きます。電磁石は、電気を流すと磁石として働く部品です。磁石に引かれた部品がレバーを動かし、ピニオンという小さな歯車を押し出します。その相手がリングギア。円盤の外周にぐるっと並んだ歯のことです。
② 大きな電流を流し、エンジンを回す
よく使われるプレエンゲージ式では、歯車のかみ合いに合わせて電気のスイッチが閉じ、モーターへ大きな電流が流れます。小さな歯車がリングギアを回し、エンジンのクランクシャフトが動き始めます。[2]
とはいえ、始動ボタンにその大電流を全部流すわけではありません。ボタンからは小さな指令を送り、別の回路で大きな電流を流します。「動いて!」と伝える電気と、実際にモーターを動かす電気は、通り道が違うわけです。
③ 始動後は、かみ合いを解除する
エンジンがかかったら、セルモーターへの電気を止め、小さな歯車を戻します。その前にエンジンの回転が速くなっても、一方向クラッチがモーターを守ってくれます。ただし、このクラッチだけで歯車を引っ込めているわけではありません。
ここまでが一般的な仕組みです。デンソーの一部のアイドリングストップ用などには、歯車を押し出す動きと、モーターを回す動きを別々に調整するものもあります。[3]
ボルトくん
始動ボタンにも、あんなに大きな電流が流れるの?
ハグルマ先生
普通は、ボタンから小さな指令を送って、大きな電流を流す回路を動かすんですよ。ボタンが直接、モーターの電気を全部受け持っているわけではないんです。
減速式と直結式は、どこが違う?
直結式は、モーターの軸から小さな歯車へ、そのまま回転を伝えます。減速式は、途中の歯車で回転を遅くする代わりに、回す力を増やします。歯車の軸をずらして並べるものや、遊星歯車を使うものがあります。
遊星歯車は、真ん中の歯車の周りに、小さな歯車を並べた仕組みです。狭い場所に減速する仕組みを収めやすいのが特徴。ただし、「減速式」という名前だけでは、中の歯車の並び方までは分かりません。
ボルトくん
回るのが遅くなるのに、どうしてエンジンを回しやすくなるの?
ハグルマ先生
回る速さを下げる代わりに、回す力を大きくできるからですよ。固いふたを長い道具で回す感じですね。エネルギーを新しく作っているわけではありません。
かからない原因は、音だけでは決まらない

| 症状 | 点検で分けて確認する対象 |
|---|---|
| 反応しない | 始動許可、電源、制御回路、ソレノイドなど |
| カチッと鳴るが回らない | バッテリー、接続部、接点、モーター、エンジンの抵抗など |
| 回り方が遅い | 電池の能力、配線の抵抗、モーター、オイルの状態など |
| モーターの音だけがする | ピニオン、リングギア、クラッチなど |
バッテリーが弱ったときと、配線のつながりが悪いときは、似た症状が出ることがあります。点検ではバッテリーに加え、始動中に配線の途中でどれくらい電圧が下がるかも調べます。これを「電圧降下」といいます。[1]
電圧降下は、電気が通る途中で電圧の一部を使ってしまうことです。端子の緩みや腐食で電気が通りにくくなると、セルモーターへ十分に届きません。途中が細くなったホースでは、蛇口に水があっても先へ届きにくいのと似ています。始動させた状態で、バッテリーの端子と配線の両方を測って調べます。
正常かどうかは、測った条件と、その車の整備資料を照らして判断します。「12Vと出たからOK」「何万km走ったら必ず交換」と、数字一つで決められるものではありません。
ボルトくん
ライトが明るければ、バッテリーは元気ってことなの?
ハグルマ先生
ライトより、セルモーターの方がずっと大きな電流を使うんですよ。ライトを点けられても、エンジンを回す電気が足りない場合はあります。配線のつながりも一緒に調べましょう。
修理や交換で確認したいこと

交換品は、取り付け穴が合えばOKというものではありません。歯の数、回る向き、電線をつなぐ端子の位置、歯車がかみ合う寸法まで関係します。見た目がそっくりでも、そのまま使えるとは限らないんです。
「リビルト品」は、使った部品を分解して点検し、必要なところを交換して組み直したものです。どこを交換し、何を検査するか、保証がどれくらいあるかは供給元によって違います。値段に加え、検査内容と保証も確認しましょう。
ボルトくん
穴が合えば、ほかの車のセルモーターでも付くの?
ハグルマ先生
穴だけでは決まらないんですよ。歯の数や回る向き、端子の位置、かみ合う寸法も必要です。その車に合う品番と仕様を確かめましょう。
よくある疑問
セルモーターとオルタネーターは同じなの?
一般的な車では別の装置です。セルモーターは電気を使ってエンジンを回し、オルタネーターはエンジンの回転を使って電気を作ります。両方の仕事ができるISGという装置もあります。
ハイブリッドにも必ず付いているの?
必ず同じ歯車式が付くわけではありません。モーターや発電機でエンジンを回すなど、ハイブリッドの方式によって仕組みが変わります。
始動しないとき、叩けば直るの?
叩いて一時的に動いたとしても、故障が直ったわけではありません。場所によっては作業そのものが危険です。繰り返す前に、始動に使う電気回路とエンジン側の状態を調べてもらいましょう。
関連記事
始動から自力で回るまでの流れ/車のバッテリーの仕組み/フライホイールの役割
参考資料
- DENSO:Starter troubleshooting。構成、減速式、点検と適合。
- HELLA:Checking the starter。一般的なかみ合いと接点の作動。
- デンソー:アイドルストップ用新型スターター。独立制御の例。
DENSO:スターターの構造と働き。関連する仕組みをメーカーの資料でも確認できます。




