車がカーブを曲がるとき、外側のタイヤは内側より長い距離を走ります。同じ車に付いているのに、外側だけ仕事が多い。なかなか不公平な職場です。
そこで、左右のタイヤが違う速さで回れるようにしているのが「デファレンシャル」。その近くでは「ファイナルギア」が回転を遅くする代わりに、タイヤを回す力を大きくしています。
今回は、この二つの役割と、エンジンの力が左右のタイヤへ伝わる仕組みをやさしく解説します。
回転差を許すデフと、回転を落とすファイナルギア

出典では4.10:1とLSD付きとされるDana 60の例。大きなリングギアだけから、特定のデフロック構造を推定していません。Dana 60 Dodge 4.10 gears.jpg — Dana60Cummins / 出典 / Public domain
カーブの外側は内側より長い距離を進むので、同じ時間に曲がるには、その分だけ多く回る必要があります。この違いを受け持つのが、デフの基本の仕事です。
デファレンシャル、短くデフは、左右などへ力を伝えながら、回る速さの違いを許す歯車の仕組みです。また、その手前で回転を遅くして、タイヤ側へ伝えるトルクを大きくするのがファイナルギアです。トルクは、軸を回そうとする力のこと。回る速さを落とす代わりに、その力を大きくします。
代表的なFR車なら、変速機から長いプロペラシャフトで力が来て、ファイナルギア、デフから左右の後輪へ届きます。FF車は、変速機とこの二つを一体にしたトランスアクスルが一般的です。
前後をつなぐ軸と、左右のタイヤへ行く軸の違いはドライブシャフトとプロペラシャフトの解説をご覧ください。
ボルトくん
左右を同じ速さで回せば、簡単なのに!
ハグルマ先生
まっすぐ走るだけならよくても、カーブで困ります。外側と内側で、進む距離が違うからなんです。
カーブでは、外側のタイヤが多く回る
陸上のトラックを思い浮かべてください。外のコースの方が長いですよね。車も同じで、外側のタイヤを多く回せないと、カーブで無理がかかります。
左右を硬い一本の軸でつなぐと、その差を作れません。タイヤがこすれて滑る、駆動系へ無理な力がかかる原因になります。デフは、両側へ力を渡しながら差を許します。
差動は、片輪が空転するときだけの動きではありません。普段のカーブでも使っています。曲がりやすくするためにも必要なんですね。
ボルトくん
曲がるときは、左右の回る速さが違っていいの?
ハグルマ先生
それが正常ですよ。外側は長い距離を走るので、多く回ります。デフが、その差を受け持ってくれます。
デフのケースと、中の小歯車はどう回る?

1:リングギア、2:デフピニオン、4:ドライブピニオン、6:サイドギア。最終減速用の4と、差動する2は別の歯車です。Differential gear (PSF).png — Pearson Scott Foresman / 出典 / Public domain
まず、代表的なFR車で、力が入る方から部品を追ってみましょう。
- プロペラシャフトが、最終減速用のドライブピニオンを回します。
- ドライブピニオンとかみ合うリングギアが、デフケースごと回転します。
- ケース内のデフピニオンが左右のサイドギアへ力を伝えます。
- 各サイドギアにつながる軸が、左右の駆動輪を回します。
ファイナルのドライブピニオンと、デフの中のデフピニオンは別の歯車です。前者は大きなリングギアを回し、後者は左右の回転差を作ります。図の外側と内側を分けて見ると、名前に惑わされません。
このFRの例では、ファイナルが回転を伝える向きも、前後から左右へ変えます。横置きFFなどは並びが違うので、全部が同じ歯車の形とは限りません。
直進するときは、ケースと一緒に回る
| 状態 | 左側 | 右側 | 左右の平均 |
|---|---|---|---|
| 同じ速さで回る | 100rpm | 100rpm | 100rpm |
| 回転差がある | 90rpm | 110rpm | 100rpm |
| 片側が止まる説明用の条件 | 0rpm | 200rpm | 100rpm |
この表の数値は、仕組みを見るための例です。路面やタイヤの滑りを再現した走行試験の値ではありません。
小歯車がケースに乗って一周する動きと、小歯車自身がくるくる回る動きは別です。左右が同じ速さなら、小さなデフピニオンはケースと一緒に回ります。自分自身の軸の周りには、基本的に回る必要がありません。両側のサイドギアも同じ速さです。
曲がるときは、デフピニオン自身も回る

ケースから取り出した歯車と軸受の実物例。直進中や旋回中の動きを写した写真ではありません。特定の車種やロック機能は、この写真だけでは断定していません。Differential with gears and bearings.jpg — BiH / 出典 / Public domain
左右に差ができると、小歯車は自分の軸の周りにも回ります。その結果、一方はケースより速く、もう一方は遅く回れます。
左右対称の普通のオープンデフでは、両側の回転数の平均が、ケースの回転数です。ケースが100rpmなら、90と110という組み合わせもできます。実際の差は、カーブの大きさなどで変わります。
ボルトくん
まっすぐ走るときは、小さい歯車も止まってるの?
ハグルマ先生
ケースと一緒には回っていますよ。ただ、左右が同じ速さなら、自分の軸の周りに回る必要は基本的にないんです。
片輪が滑ると、反対側も力を出しにくくなる
回転差を制限しないものが「オープンデフ」です。左右対称の普通の構造では、摩擦や回る部品の慣性を小さいと考えると、左右へほぼ同じトルクを渡します。回転が違うから、トルクもその割合で違うとは限りません。
片輪が氷の上で、少しのトルクでも滑ると、反対側へ渡せるトルクも小さくなります。反対のタイヤが乾いた道にあっても、車を動かす力が足りないことがあります。
滑る側だけに全部のトルクが行く、接地する側は必ずゼロ、という話ではありません。これを補うのがLSDやデフロックや、空転輪へブレーキを使うトラクションコントロールなどです。
ボルトくん
滑るタイヤに、全部の力が行っちゃうの?
ハグルマ先生
左右へほぼ同じトルクを渡すため、滑る側が受けられる小さな値に、反対側も制限されるんですよ。全部が片側へ行くわけではありません。
最終減速比を大きくすると、トルクと回転数はどう変わる?
最終減速比は、入口の回転数を、減速した後の回転数で割ります。一組の歯車なら普通、出口の歯数を入口の歯数で割って求めます。
4:1なら入口が4回る間、出口は1回です。損失なしでは回転は4分の1、トルクは4倍。ただし、これは出口側の合計です。左右それぞれに4倍ずつ渡るわけではありません。
同じ段とタイヤなら、最終減速比が大きいほどタイヤ側のトルクは増えます。その代わり、同じ車速でエンジンが多く回ります。加速と燃費は、エンジン、使う段、車の重さ、走り方でも変わります。
変速機の比率も入れた計算は変速機の原理で説明しています。
ボルトくん
4倍の力が、左右に4倍ずつ届くの?
ハグルマ先生
4倍になるのは、減速した後の合計ですよ。それを左右に分けるので、片輪ずつへ合計が届くわけではありません。
左右の回る速さと、回す力は別の話
オープンデフは、ほぼ同じトルクを渡しつつ、違う回転数を許します。トルクは回そうとする働き、出力は時間あたりにする仕事です。出力は、トルクと回転数の掛け算に比例します。
だから、同じトルクでも、速い側と遅い側へ渡る出力は違います。全部の力が空転輪へ、という一言では、この二つを混同してしまいます。
説明用に、ケースが100rpmで一方が止まれば、もう一方は200rpmです。平均100は保たれます。ただ、実際に空転するときには、タイヤと路面の抵抗も関係します。
ボルトくん
同じトルクなら、同じ速さになるんじゃないの?
ハグルマ先生
回す力と、回る速さは別ですよ。デフは、ほぼ同じトルクを渡しながら、違う速さで回れるようにします。
よくある疑問
直進ではデフの小歯車が止まる?
ケースとは一緒に回ります。左右が同じ速さなら、小歯車自身の軸周りの回転は、基本的に必要ありません。
片輪の力は必ずゼロになる?
滑る側が受けられる小さなトルクに、反対側も制限されます。必ずゼロになるわけではありません。
ファイナルを大きくすれば燃費も改善する?
同じ車速のエンジン回転は上がる方向です。燃費は効率、段、抵抗、車の条件も合わせて見ます。
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