車にはLSDという、ちょっぴし危険な臭いがするパーツが使われおり、「トルセン」や「機械式」と呼ばれるタイプがあります。どちらも”パキっ”とタイヤへ力を伝えやすくする装置ですが、中の仕組みはどう違うのでしょうか?詳しく解説していきます。
LSDは、左右のタイヤの回転差を抑える装置
普通のデフは、左右が違う速さで回るのを許す

図:メカニズモ(模式図)
車が曲がるときは、外側のタイヤのほうが長い距離を進みます。左右をいつも同じ速さで回すと、この距離の違いに合わせにくくなります。
そこで、左右が違う速さで回るのを許しながら力を伝えるのが、デファレンシャル、略してデフです。
普通のデフは、左右へほぼ同じ「回す力」を伝えます。この回す力がトルクです。なので、片方が小さな力で滑ってしまうと、反対側にも大きな力を伝えにくくなります。全部の力が滑る側へ移る、というわけではありません。[1]

イラスト:メカニズモ(形・位置の概略)
回転差に抵抗を加えるのがLSD
LSDは、左右が違う速さで回ろうとする動きに抵抗を加え、路面へ力を伝えやすくする装置です。
トルセンは歯車を使います。日本の車の話で「機械式LSD」というと、薄い板を重ねて押し付けるタイプを指すことがよくあります。ここでも、この二つを比べます。トルセンも機械で動くので、名前だけだと少しややこしいですね。[1][2]
ボルトくん
LSDが働いたら、左右のタイヤはいつも同じ速さで回るの?
ハグルマ先生
回転の違いをどこまで許すかは、仕組みや条件で変わりますよ。左右を完全につないでしまうデフロックとは、分けて考えます。
トルセンは、歯車に力がかかると生まれる摩擦を使う
歯車が押し付けられて、回転差を抑える

ChrMeissner Christian Meißner (ChrMeissner) / Torsen differenzial skizze typ a.gif / Copyrighted free use
トルセンでは、歯車に回す力がかかると、歯車などが中の部品へ押し付けられます。そこで生まれる、こすれる抵抗を使って、左右の回転差を抑えます。
センサーが滑りを見つけてから電気で動かすのではなく、伝える力に合わせて、中の歯車や部品が働く仕組みです。トルセンにも種類があり、どれも同じ歯車の並び方とは限りません。[1]
片側へ増やせる力には、割合の上限がある

図:メカニズモ(模式図)
トルセンの説明に出てくるTBRは、片方に対して、もう片方へどれくらい大きな回す力を伝えられるか、その割合の目安です。[3]
説明用に4対1だとすると、弱い側が受け止められる力を1として、強い側には最大4まで、という考え方になります。いつも4対1に分けるわけでも、片方が4倍速く回るわけでもありません。この数字は、特定の製品の性能を示したものではありません。
ボルトくん
TBRが4対1なら、片方のタイヤが4倍の速さで回るってことなの?
ハグルマ先生
比べているのは回る速さではなく、回す力の大きさですよ。速さと力を分けると、分かりやすくなりますね。
機械式と呼ばれるタイプは、板を押し付ける
重ねた板がこすれる力を使う

160SX / Components_NISMO_GT_LSD_Pro_01.JPG / CC BY-SA 3.0

図:メカニズモ(模式図)
このタイプには、薄い板が交互に重なって入っています。板を押し付けると、板同士がこすれる抵抗で、左右の回転差を抑えられます。この仕組みを多板クラッチ式と呼びます。
回す力を、斜めの面を使って板を押す力へ変える仕組みがあります。これがカムです。ばねなどで、最初から板を押しておくものもあります。
最初からある回しにくさに関わる値が、イニシャルトルクです。板やばね、カムの組み合わせによって、LSDの効き方が変わります。[2]
1WAY、1.5WAY、2WAYは、力がかかる向きの違い

図:メカニズモ(模式図)
1WAYは、主に加速するときの力で効きを強めるタイプです。1.5WAYは、減速するときにも、加速側より弱く効かせるタイプ。2WAYは、加速側と減速側の両方で効かせるタイプです。[2]
走る道が一つか二つか、という意味ではありません。デフに力がかかる向きと、カムの形が関係しています。最初から板を押す力などもあるため、1WAYでも減速側の抵抗が完全にゼロになるとは限りません。
ボルトくん
2WAYって、左右のタイヤをずっとくっつけておく仕組みなの?
ハグルマ先生
加速側と減速側、両方の力で効かせるという意味です。いつも左右が固定されるわけではなく、効く強さも部品や走る条件で変わりますよ。
片方のタイヤが浮くと、違いが出ることも
トルセンは、弱い側が受け止められる力をもとに、反対側へ伝える力を増やします。片方が浮いて抵抗がほぼなくなると、もう片方へ伝えられる力も限られます。
車が滑る側にブレーキをかける機能や、最初から抵抗を持つ作りも、この状態に関わります。トルセンがあれば、片輪が浮いても必ず脱出できる、とは言えないんです。[4]
板を使うタイプは、板を押す力などによって、片輪の抵抗が小さくても力を伝えられる場合があります。ただし、それにも限界はあります。LSDがあっても、タイヤと路面が受け止められる力を超えれば滑ります。
強く効けば、どんな用途にも合うの?
| 比べるところ | トルセン | 板を使う機械式 |
|---|---|---|
| 主に使う仕組み | 歯車に力がかかると生まれる摩擦 | 重ねた板を押し付ける力 |
| 効き方に関わるもの | 力を分けられる割合、中の歯車、車との組み合わせ | 板、ばね、カム、最初からある抵抗 |
| 整備で確認するもの | 指定のオイル、歯車などの状態 | 指定のオイル、板の状態、製品ごとの整備基準 |
回転差を強く抑えると力を伝えやすくなる一方、曲がるときの動きや音にも影響します。板を使うタイプでは、板が滑ったり食い付いたりすることで、音や振動が出る場合もあります。
どちらも、指定のオイルや使い方を確認します。トルセンだから点検不要、機械式だから全部レース用、とは決めず、車と製品に合うものを選びましょう。[2][3]
よくある疑問
歯車を使うLSDは、全部トルセンなの?
トルセンは製品や仕組みの名前です。歯が斜めになった歯車をヘリカルと呼びますが、それを使うLSDが全部トルセンというわけではありません。
LSDを付けると、エンジンの馬力も増えるの?
馬力は増えません。エンジンなどから届いた力を、タイヤから路面へ伝えやすくする装置です。
関連記事
- デファレンシャルとファイナルギア:差動と減速の基本を確認できます。
- LSDとデフロックの違い:差動を制限する装置と直結する装置を比べられます。
参考資料
- Torsen「How It Works」:内部摩擦、トルク感応、差動とトルク配分。
- CUSCO「LSD製品解説」:カム、摩擦板、初期抵抗、1WAY・1.5WAY・2WAY。
- Torsen「FAQ」:TBRの意味とオイルの指定。
- Torsen「Torque Bias Ratio Functional Questions」:片輪の抵抗がゼロに近い場合とロック機構の違い。
アイキャッチ写真:160SX / Components_NISMO_GT_LSD_Pro_01.JPG / CC BY-SA 3.0




