LSDとデフロックは、どちらもデフに関わる装置です。名前が似ていても、働き方は同じなのでしょうか?
普通のデフは、なぜ片輪の空転に弱いのか
カーブでは、外側のタイヤが内側より長い距離を進みます。左右のタイヤが違う回転数で回れるようにしながら、両方へトルク、つまり軸を回す力を伝えるのがデファレンシャルギアです。差動を制限する機構がないものを、オープンデフと呼びます。
左右対称のオープンデフでは、内部の摩擦などを小さいものと考えると、左右へ伝わるトルクはほぼ等しくなります。そのため、片輪がわずかなトルクで滑り出すと、反対側へ伝えられるトルクも小さくなります。接地しているタイヤにまだ余裕があっても、その力を十分に使えないことがあるのです。
LSDやデフロックは、こうしたときに左右へ異なる大きさのトルクを伝えられるようにします。ただし、タイヤの接地や路面の摩擦には限界があるため、装着すれば必ず脱出できるわけではありません。
ボルトくん
地面についているタイヤにも、もっと力を送れないの?
ハグルマ先生
オープンデフは左右へほぼ同じトルクを伝えるため、滑りやすい側に制約されます。その制約を和らげるのがLSDやデフロックです。
LSDは回転差を抑え、デフロックは止める

最終減速機とLSDを持つアクスルの例。ロック機構を写す写真ではありません。Dana 60 Dodge 4.10 gears.jpg — Dana60Cummins / 出典 / Public domain。
LSDはLimited Slip Differentialの略です。歯車やクラッチなどで差動に抵抗を与え、片輪が空転しようとする動きを抑えます。曲がるために必要な回転差をある程度許せるので、公道を走る車にも使われます。
効き始める条件は方式ごとに異なります。回転差を利用するもののほか、入力トルクや電子制御によって、大きな空転が起きる前から働くものもあります。
一方、左右輪のデフを完全にロックすると、左右の出力軸は同じ回転数になります。片輪が浮いている場合でも、接地側へ駆動トルクを伝えられるのが特徴です。運転者が切り替える方式も、機械的な条件に応じて自動で作動・解除する方式もあります。
同じになるのは回転数で、トルクが常に左右50:50になるわけではありません。それぞれのタイヤが路面から受ける反力などによって、実際に伝わるトルクは変わります。
ボルトくん
ロックすると、左右の力も半分ずつになるの?
ハグルマ先生
固定されるのは回転差です。左右が同じ速さで回っていても、受け持つトルクまで同じとは限りません。
前後をつなぐロックと、左右をつなぐロック

2が前後を分けるセンターデフ、前後の車軸側にも左右を分けるデフがあります。センターロックだけで四輪をすべて直結するわけではありません。この図はロック部品の内部構造を示していません。Central differential in car transmission.svg — Tryphon / 出典 / Public domain。
フロントデフとリヤデフは、それぞれの車軸にある左右輪の回転差を受け持ちます。このデフをロックすると、その車軸の左右輪が同じ回転数になります。
センターデフが受け持つのは、前輪側と後輪側の回転差です。センターデフをロックしても、前後それぞれにある左右のデフは働き続けます。四つのタイヤがすべて同じ回転数になったり、四輪へ均等なトルクが届いたりするわけではありません。
車の説明に「デフロック付き」と書かれていたら、どのデフをロックする機能なのかを確かめましょう。前後で回転差が必要になる理由は、センターデフ式フルタイム4WDで詳しく説明しています。
ボルトくん
センターをロックすれば、四輪とも直結するんじゃないの?
ハグルマ先生
前後のつながりは固定されますが、左右のデフは別です。どこをロックしているかで、タイヤの動きも変わります。
クラッチ式LSDと1WAY・2WAYの違い
複数の摩擦板を押し付け、その摩擦で差動を制限します。一般に「機械式LSD」と呼ばれる製品では、入力トルクによってカムが押し広げられ、クラッチを圧着する構成が使われます。初期の押付力やカム形状によって特性が変わります。
1WAY・1.5WAY・2WAYは、主に駆動側とエンジンブレーキ側でのカムの働き方を表す分類です。
- 1WAY:主に駆動側で差動制限力を増やします。
- 1.5WAY:駆動側に加え、エンジンブレーキ側でも比較的弱く作用します。
- 2WAY:両方向で差動制限力を発生させます。
2WAYでも常時完全に直結されるわけではありません。実際の効き方は設定や伝達トルクによります。一般向けの分類名だけで、扱いやすさや雪道性能の優劣を決めることはできません。
ボルトくん
2WAYって、いつでもガッチリつながっているの?
ハグルマ先生
駆動側とエンジンブレーキ側の両方で、差動制限力が生まれるという分類です。効き方はカムや初期の押付力などの設定でも変わります。

NISMO GT L.S.D. Proの構成部品。右側に重ねて使う摩擦板、中央にプレッシャーリングや歯車などが並ぶ実物展示。写真だけで1.5WAY・2WAYの設定は断定しない。Components NISMO GT LSD Pro 01.JPG — 160SX / 出典 / CC BY-SA 3.0。
歯車式・ビスカス式・電子制御式の働き
ヘリカルギア式・トルセン

Type Aの歯車構成を示す図。Type BやType C、すべてのLSDと共通の配置ではありません。Torsen differenzial skizze typ a.gif — Christian Meißner (ChrMeissner) / 出典 / Copyrighted free use — explicit permission for any purpose, including commercial use and modification。
歯車に力が加わることで生じる押付力や摩擦を利用して、差動を制限します。トルセンは製品の名称で、ウォームギアを用いるType A、ヘリカルギアを用いるType B、センターデフ向けのType Cなどがあります。
トルクをどこまで偏らせられるかには設計上の限度があります。片輪が完全に浮くなど、一方の反力がほとんどなくなる条件では、十分な駆動力を得にくい方式もあります。ブレーキ制御との組合せなどを含め、車両全体で性能が決まります。
ビスカス式

Eagle Talon Tsi AWDの後輪デフ用部品。前後をつなぐHaldexカップリングや、別車種の部品としては扱っていません。Viscous coupling unit1a.jpg — Andy Rusho, www.zero2blur.com (Arusho at en.wikipedia) / 出典 / CC BY-SA 3.0。
粘性の高いシリコーンオイルと複数のプレートを利用します。二つの回転部分に速度差が生じると、オイルを互いにずらすように動かしたときの抵抗、つまりせん断抵抗によってトルクを伝え、差動を抑えます。作用は回転差や温度などに左右され、機械的なデフロックと同じ状態を常に作るものではありません。
電子制御式とブレーキを使う方式
| 方式の例 | 主に働かせる装置 | デフを機械的に固定するか |
|---|---|---|
| クラッチを制御するLSD | 差動制限用クラッチ | 押し付け力を変える。常時完全ロックではない |
| ブレーキを使う機能 | 空転側の車輪ブレーキ | 通常は内部のデフを固定しない |
| 電気的に操作するデフロック | ロック用機構 | 実際のロック機能と商品名を確認する |
電子制御LSDには、センサー情報に応じてクラッチの押付力を調整するものがあります。一方、「ブレーキLSD」「電子デフロック」などの名称で、空転輪のブレーキを使う機能もあります。
ブレーキを使う方式は、通常、デフ内部を機械的にロックしません。空転側に抵抗を与え、反対側の車輪にもトルクを伝えやすくします。名称だけで判断せず、トラクションコントロールとの関係を含めて確認しましょう。
ボルトくん
「電子デフロック」も、中の歯車を固定するの?
ハグルマ先生
ブレーキを使う方式では、通常はデフ自体を固定しません。空転輪にブレーキで抵抗を与え、反対側にもトルクを伝えやすくします。
ロックの使用条件と、LSDの点検で気を付けること
完全にロックしている間は、カーブで必要な回転差を作れません。曲がりにくくなるだけでなく、タイヤや駆動系にも負担がかかります。特に乾いた舗装路での使用は避け、使える路面や速度、切替条件を車の取扱説明書で確認してください。空転している最中に急にロックすると、駆動系へ衝撃を与えるおそれもあります。
LSDは種類や設定によって、曲がるときの感触、音、振動が変わります。装着や交換を考えるときは、車種への適合、指定オイル、車両の制御装置との関係を専門業者に確認しましょう。
すでにLSDが付いている車でも、異音をすべて「LSD特有の音」で済ませないことが大切です。以前と音が変わった、振動も出るようになったといった変化があれば、点検を受けてください。
ボルトくん
曲がりにくくても、そのまま走ればロックは外れる?
ハグルマ先生
解除方法は車によって違います。無理に旋回せず、取扱説明書で解除手順を確認してください。
トルクバイアス比には、低い側の反力が必要
歯車式LSDなどの説明に出てくるTBRは、Torque Bias Ratio、トルクバイアス比の略です。左右へどの程度異なるトルクを伝えられるかを示します。例えば説明用に3:1なら、低い側が100N・mを受け持つ条件で、高い側は最大300N・mという関係です。
これは入力がいつでも300N・m増えるという意味ではありません。入力の合計と、タイヤが受け持てる反力にも限度があります。低い側の反力がほとんどない条件では、比率だけの仕組みで大きな力を作れません。
初期の押付力を持つ設計や、空転側にブレーキで抵抗を加える制御などで挙動は変わります。TBRという数字だけで、片輪を浮かせた場面や雪道の性能を一律に評価できない理由です。
ボルトくん
3倍にできるなら、浮いたタイヤのゼロも3倍して進める?
ハグルマ先生
ゼロに比を掛けても大きなトルクにはなりません。初期の制限力やブレーキ制御など、別の反力を作る仕組みも関係します。
よくある疑問
デフロックはトルクを必ず50:50にする?
固定するのは回転差です。左右や前後へ伝わるトルクは、路面からの反力などで変わります。
2WAYは常時ロック?
主に駆動側とエンジンブレーキ側で差動制限力を作る分類です。完全ロックとは違います。
電子デフロックは全部同じ機械?
ブレーキを使う機能、クラッチを制御する機能などがあります。商品名だけで内部のロック構造は決まりません。
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