変速比は、変速機に入る回転数と、そこから出る回転数の関係を表す数字です。エンジンが何回も回っている間に、出てくる側は1回転。別に途中でサボっているわけではありません。
回る速さを減らす代わりに、軸を回す力を大きくできます。どうしてそんな交換ができるのか、小さな歯車と大きな歯車を一組だけ使って考えてみましょう。
低いギアで力強く、高いギアで回転を抑える

MTの断面展示。かみ合う歯車と、それを支える軸が見えます。写真だけから特定の車種や全段の経路を決めていません。Porsche-gearbox-cutaway.jpg — BerndB~commonswiki (original); Geek3 (brighter derivative) / 出典 / CC BY-SA 3.0
歯数10の歯車で、歯数20の歯車を回すとします。小さい方が1回転して歯を10個分送っても、大きい方は半回転しか進みません。こうして、歯数の違いで、回転の速さを変えられます。
回転を遅くする組み合わせでは、損失を除けば、その分だけ軸を回そうとする働きを大きくできます。回転の速さと引き換えに、力を増やしているわけです。何もないところから力を生み出す魔法の歯車ではありません。
発進や坂道で低いギア、速度に乗ったら高いギアを使うのは、そのためです。MTもATもCVTも、回る速さと力を走り方に合わせる目的は共通です。各方式はトランスミッションの役割と種類で比べています。
ボルトくん
回す力が増えるなら、ずっとそのギアでよくないの?
ハグルマ先生
今度は速さが出しにくくなります。だから、走る速さや必要な力に合わせて、比率を変えるんですよ。
変速比は入力回転数を出力回転数で割った値

入力の小歯車が2回転すると、大歯車は逆向きに1回転。二つの外歯車を直接かみ合わせた例で、実際の歯面形状は簡略化しています。
図:メカニズモ 出典
変速機へ入る軸が3回転すると、出ていく軸が1回転する。この場合の変速比は3です。「変速比=入口の回転数÷出口の回転数」なので、3÷1で3になります。ここでは回る向きをいったん脇へ置いて、どれくらい速さが変わったかに注目しましょう。
例えば、入口が3,000rpmなら出口は1,000rpmです。rpmは、1分間の回転数を表します。
ただし入口の軸が、いつもエンジンと同じ速さとは限りません。クラッチが滑らずつながる、トルコンが完全にロックアップするなら、普通は同じと考えます。発進で滑っている間は、その回転差も必要です。
変速比4.0なら、出口は入口の4分の1の回転
表のN・mはニュートンメートルで、軸を回す力の大きさを表す単位です。回転の速さを4分の1にすると、損失を省いた計算では回す力が4倍になる、という関係を見比べてみてください。
下の表は、入口を2,400rpm、100N・mとして、変速機だけを比べた例です。こすれなどの損失は省いています。実車の仕様ではありません。
| 変速比 | 出力回転数 | 出力トルクの理論値 |
|---|---|---|
| 4.0 | 600rpm | 400N・m |
| 2.0 | 1,200rpm | 200N・m |
| 1.0 | 2,400rpm | 100N・m |
| 0.8 | 3,000rpm | 80N・m |
1.0なら入口と出口が同じ速さ、1.0未満なら出口の方が速くなります。この増速する段が「オーバードライブ」です。ただし、その先でも減速するので、タイヤまでエンジンより速く回るという意味ではありません。
トルクと出力は分けて考える
| 場所 | 回転数 | トルク | 出力の目安 |
|---|---|---|---|
| 入力 | 2,400rpm | 100N・m | 約25.1kW |
| 4:1で減速した出力 | 600rpm | 400N・m | 約25.1kW |
次の式は、数字を確かめたい人向けの補足です。回す力が4倍でも回る速さが4分の1なら、取り出すパワーは増えていません。この関係が分かれば、式は飛ばしても大丈夫です。
出力は「トルク×回転数×2π÷60」でWへ換算できます。表は損失のない例ですが、実物では、失う分だけ出力が小さくなります。
損失がないとすれば、出口のトルクは「入口のトルク×変速比」です。実際には歯車や軸受(回転する軸を支える部分)のこすれ、油をかき混ぜる抵抗があるので、その値より小さくなります。
トルクは回そうとする働き、出力は同じ時間にする仕事です。トルクを増やせるのは、回る速さを下げるから。エンジンのパワーが増えたわけではありません。違いはトルクと馬力の基礎で説明しています。
ボルトくん
0.8なら、出口の方が速く回るの?
ハグルマ先生
変速機だけならそうですよ。ただし先のファイナルギアで減速するので、タイヤがエンジンより速く回るとは限りません。
「入力」はエンジン側から入ってくる回転、「出力」はタイヤ側へ出ていく回転です。例えば入力が毎分2,000回転、出力が毎分1,000回転なら、変速比は2です。ここでいう出力回転数と、馬力で表すエンジンの出力は、同じ「出力」という言葉でも見ている量が違います。
歯数が違うと、回転数はどう変わる?

赤14歯→青42歯で3:1、同じ軸の黄14歯→緑28歯で2:1。合わせた減速比は6:1です。車の変速機全体を示す図ではありません。AnimatedGears.gif — Jahobr / 出典 / CC0
二つの歯車は、同じ数の歯を送り合います。入口が20歯、出口が60歯なら、小さい方が3周して60歯進む間に、大きい方は1周です。60÷20で、変速比3.0になります。
歯の数で求めるなら「変速比=出力側の歯数÷入力側の歯数」です。
この関係は、歯車メーカーKHKの歯車比に関する技術資料でも確認できます。外側の歯でかみ合う二つは、反対向きに回ります。内側に歯がある歯車と組み合わせる場合は、向きの関係が変わります。
実車では、複数の歯車の組を通るものもあります。その場合は、途中の各比率を掛けて、全体の変速比を求めます。
ボルトくん
小さい方が3周して、大きい方はやっと1周なんだね!
ハグルマ先生
この歯の数なら、そうですよ。一組の歯車は、出口側の歯数を入口側で割れば比率が出ます。
二段の減速では、比を足さずに掛ける

- 同じ軸につながる
- 1段目:2分の1
- 2段目:さらに2分の1
- 入力100回転 → 50回転 → 出力25回転
- 減速比は 2 × 2 = 4
上のアニメーションは、まず14歯から42歯へ渡し、回転が3分の1になります。次の14歯は42歯と同じ軸なので、同じ速さです。そこから28歯へ渡すと、さらに2分の1です。
全体は3×2で6です。最初が2,400rpmなら最後は400rpm。損失がなく、入口が100N・mなら最後は600N・mです。N・mはニュートンメートルで、回そうとする働きの大きさを表します。
間に一枚入れて向きを変える歯車と、同じ軸へ大小の歯車を付け、さらに減速する仕組みは違います。枚数だけ数えても、全体の比率は分かりません。
ボルトくん
3:1と2:1を合わせたら、5:1なの?
ハグルマ先生
3分の1になった回転を、さらに2分の1にするので、6分の1ですよ。減速比は6:1になります。
車輪までの回転数には、最終減速比も関わる
仕様表には、各ギアの変速比とは別に「減速比」が載ります。普通は、ファイナルギアで最後に減速する割合です。変速機を出た回転を、ここでもう一度落とし、タイヤ側の力を増やします。
全体では「総減速比=変速機の変速比×最終減速比」となります。
変速比2.0、最終減速比4.0なら、合計の減速比は8.0です。滑りや追加の減速がなく、まっすぐ走るなら、エンジン4,000rpmで駆動輪は500rpmになります。
タイヤが一周で2m進むとすれば、500rpmで1分に1,000m、時速60kmです。同じ条件で変速比を1.0にすると、60km/hのエンジン回転数は2,000rpmになります。
実車では、タイヤが一周で進む実際の距離、滑り、ほかの減速装置も関わります。また、求めたタイヤ側の総トルクは左右へ分かれます。片輪ずつに全部が届くわけではありません。減速と分配の違いはファイナルギアとデファレンシャルをご覧ください。
ボルトくん
エンジンの回転数だけで、車の速度も分かるの?
ハグルマ先生
ギアの比率、最後の減速比、タイヤ一周で進む距離も必要ですよ。クラッチなどが滑っている分も考えます。
MTは、使う歯車を軸へつなぐ
普通の乗用MTでは、前進の歯車はいつもかみ合っています。レバーで選ぶのは、どの歯車を軸と一緒に回すかです。自由に回る歯車のうち、使うものを軸へつなぐと、その段で力が伝わります。
軸と回るハブに、前後へ動くスリーブが付きます。それが選んだ歯車の結合用の歯へかみ合えば、歯車と軸が一緒に回ります。どの歯車をどの軸につなぐかは、設計によって違います。
ニュートラルは、タイヤへ力を渡す段を選んでいない状態です。中の歯車が回っていても、エンジンからタイヤまでつながっていません。タイヤを固定する働きもありません。
シンクロメッシュが、つなぐ前に回転を合わせる

Volkswagen Golf 1600第4世代の部品を、正面・側面から示した写真です。円すい状の摩擦面で回転差を整えます。リングの枚数や細かな形は変速機によって違います。Sincronizzatore.jpg — A7N8X / 出典 / CC BY-SA 3.0
つなぐ歯車とスリーブの回る速さが大きく違うと、歯がなめらかに入りません。そこでシンクロメッシュが、摩擦で回転差を減らします。
- シフト操作によってスリーブが移動します。
- シンクロナイザーリングがギア側の円すい面に押し付けられます。
- 摩擦でギアとハブ側の回転数が近づきます。
- 回転がそろうとスリーブが進み、ギアを軸に結合します。
順番はTREMECのシンクロナイザー解説でも見られます。リングや接触面が複数あるものもありますが、歯でつなぐ前に、摩擦で速さを近づける基本は同じです。
シンクロが合わせるのは、変速機の中の部品同士です。クラッチは、エンジンから来る力を切ります。担当する場所が違うので、シンクロがあればクラッチを踏まなくてよい、とはなりません。
ボルトくん
ニュートラルなら、歯車も全部止まってるの?
ハグルマ先生
中には、回っているものもありますよ。タイヤへつながる段を選んでいないだけです。車を止めておく働きもありません。
ATは、つなぐ部分と止める部分でギアを変える

- 外側:リングギア
- 中央:サンギア
- 周り:プラネタリーギア
- 中心を支える:キャリア
- 歯先は省略。円は、かみ合う位置の関係を表す。
トルコンATでは、遊星歯車を複数組み合わせるものが多いです。まず一組の中身を見てみましょう。基本は、下の四つです。
- サンギア:中心にある歯車
- リングギア:内側に歯を持つ外周の歯車
- プラネタリーギア:サンギアとリングギアの両方にかみ合う小歯車
- キャリア:プラネタリーギアの軸を支える部品
小さなプラネタリーギアは、自分で回りながら、キャリアに支えられて中心のサンギアの周りも回れます。サン、リング、キャリアのどこを入力、出力、固定にするかで、減速、増速、逆転を作ります。
リングギアを止めると、どう減速する?
外のリングを止め、中心のサンを回してキャリアから取り出すなら、同じ向きへゆっくり回ります。この条件の比率は「1+リングの歯数÷サンの歯数」。40歯と80歯なら3.0で、中心が3回転するとキャリアが1回転します。
同じ減速の組み合わせは、KHKの遊星歯車の構成例でも紹介されています。この式は、入口、出口、固定する部分が同じときのものです。担当を変えると、回転の関係も変わります。
部品をつなぐクラッチと、固定するブレーキ

Lexus IS Fの8速ATの断面展示。一般的な部品の詰まり方を見る例です。本文で説明するZF 8HPと同じ製品や内部配置ではありません。Automatic transmission cut.jpg — Silverxxx (talk) 04:33, 1 March 2009 (UTC) / 出典 / CC BY-SA 3.0
実際の多段ATは、いくつかの遊星歯車とクラッチ、ブレーキを使います。クラッチは部品同士をつなぎ、ブレーキはある部品をケースへ固定します。このブレーキは、タイヤを止めるものとは別です。
固定には多板式などもあり、全部がブレーキバンドを使うわけではありません。どれをつなぎ、いつ油の圧力を変えるかで、ギア段となめらかさが決まります。
トルコンは主に、発進などでの回転差を扱います。ギア段を作る遊星歯車とは別の役です。トルクコンバーターとロックアップの仕組みと分けて見ると、仕組みを追いやすくなります。
ボルトくん
ATの中のブレーキも、車を止めるものなの?
ハグルマ先生
中の部品を、ケース側へ固定するものですよ。どこを止めるかで回転の関係が変わり、ギア段を作れるんです。
CVTの変速と後退では、何が変わる?
ベルト式やチェーン式CVTは、プーリーに掛かる円の大きさを変え、比率をなめらかに動かします。決まった歯車を選ぶ方式とは違いますが、減速すれば回す力を増やせる関係は同じです。中身はCVTの仕組みで解説しています。
バックは、タイヤへ行く回転を反対にします。MTには間の歯車を使うもの、ATには遊星歯車で逆転するものがあります。電動車はモーターを逆回転する方式もあり、全車に同じバック用ギアがあるわけではありません。
ボルトくん
バックするときは、エンジンも逆に回るの?
ハグルマ先生
エンジンはそのままで、途中の仕組みで向きを反対にしますよ。電動車では、モーター自体を逆に回すものもあります。
よくある疑問
変速比が大きいのは高速用?
一般的には、数字が大きい方が強く減速し、発進や低速に使う側です。高いギア段という言い方とは、分けて考えましょう。
減速すると馬力が増える?
理想的には出力は同じで、回転を遅くする分、トルクが増えます。実物では、失う分だけ出力が減ります。
ファイナルだけで車速を計算できる?
ファイナルだけでなく、変速機や追加の減速比、タイヤが一周で進む距離、滑りも必要です。
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