実は、車にもバッテリーが付いています。
「知っとるわ」と思った方、そのバッテリーが何をしているかまで説明できますか?
ガソリンを満タンにしても、この小さな箱が働かなければエンジンはかかりません。燃料代を払ったのに、車からは無言の対応です。
今回は、そんな車のバッテリーが電気を蓄える仕組みと、その意外に重要な仕事をやさしく解説します。
まずは電気の言葉を、トイレで例えると?
少々お下品ですが、電圧・電流・抵抗を、うんこの流れに例えてみましょう。体の仕組みと電気が同じという意味ではなく、言葉を区別するための例えです。
- 電圧(V/ボルト):押し出そうとする圧力、きばる強さのイメージ。
- 電流(A/アンペア):1秒あたりに通る量のイメージ。電気では、1秒あたりに流れる電気の量です。
- 抵抗(Ω/オーム):通り道の狭さなど、流れにくさのイメージ。
- 電力(W/ワット):1秒あたりに使うエネルギー。たまった体力の総量とは違います。
電力は「電圧×電流」です。例えば12Vで10Aなら120W。何秒使ったかまで掛けて初めて、使ったエネルギーの量になります。なお、実際の電池や配線は、体と違う仕組みで働きます。
始動するときも、停車中も電気を支える

一般的なガソリン車には、電気を蓄えておく12Vのバッテリーがあります。主な出番は、エンジンをかけるときや、発電が足りないときです。特にセルモーターを回す場面では、大きな電流を流します。
よく使われる鉛蓄電池は、中の物質の化学反応で電気を取り出します。充電すると、その反応を逆向きに進めて、また使える状態へ戻します。電気を液体のように、空いた箱へ詰め込んでいるわけではないんですね。
始動時には、大きな電流を送り出す
止まったエンジンは、自分だけでは回り始めません。普通のエンジン車では、バッテリーの電気でセルモーターを動かし、エンジンの軸を回します。そこから空気を吸い、押し縮める動きが始まります。この最初の回転がクランキングです。
このときは、短時間に大きな電流を使います。ライトやカーナビが動いても、エンジンを回すだけの電気を送れない場合があります。電気で回す仕組みはセルモーターの仕組みをご覧ください。
エンジン停止中の電装品にも電力を送る
エンジンを止めても、室内灯、オーディオ、駐車中に働く制御装置などは電気を使います。走っている間も、発電が消費に追いつかなければ、バッテリーが足りない分を補います。
エアコンも、風を送るファンや制御装置と、冷媒を圧縮するコンプレッサーでは、動かす力の出どころが違う場合があります。全部を12Vの電池だけで動かす、とまとめることはできません。
ボルトくん
電気って、中の隙間にためてるんじゃないの?
ハグルマ先生
化学反応を使って、取り出したり戻したりしているんです。だから、使い方や劣化によって、働きも変わりますよ。
12Vの鉛蓄電池は、小さな電池を六つつないでいる

ここでいう「部屋」はセルという小さな電池です。隣のプラスとマイナスを順につなぐ直列接続なので、電圧が足し合わされます。図の記号は接続を表し、実際の端子の取り付け場所を示すものではありません。
図:メカニズモ

ケースの内部に仕切りと極板群を持つ実物展示。充電中の化学反応を写した写真ではなく、極板の材料や極性は写真の色から判断しません。Car battery cross-section.jpeg — Ben Cossalter / 出典 / CC BY-SA 3.0
板と液体の化学反応で、電気を出し入れする
バッテリーのケースの中には、ただ電気が詰まっているわけではありません。プラスとマイナスの板、反応に使う液体、板同士を隔てる部品が入っています。これらの化学反応を使って電気を取り出し、充電するときは反応を逆に進めます。中にある部品を、一つずつ見ていきましょう。
- プラス極板:プラス側の反応を受け持つ板です。充電された状態では、主に二酸化鉛という物質が使われています。
- マイナス極板:海綿状の鉛が反応に関わります。
- 電解液:希硫酸で、極板との化学反応やイオンの移動に関わります。
- セパレーター:プラス極板とマイナス極板の直接接触を防ぎながら、イオンが移動できるようにします。
- 電槽:極板や電解液を収めるケースです。
電池の一つの単位を「セル」といいます。一般的な12Vの鉛蓄電池は、約2Vのセルを六つ、直列につないで作ります。直列は、一つのセルのプラスを次のセルのマイナスへ順につなぐ方法です。電圧が足されるので、約2Vが六つで約12Vになります。セルの中には何枚も板があり、大きな電流を取り出しやすくしています。
12Vは、電池を分類するための公称の数字です。いつ測っても、ぴったり12Vではありません。充電の状態、温度、使う電気、測るタイミングで変わります。
放電と充電では、反応の向きが変わる
| 状態 | 電気の出入り | 極板と電解液 |
|---|---|---|
| 放電 | 電装品へ電力を送る | 両極板に硫酸鉛ができ、硫酸濃度が下がる |
| 充電 | 外部から電力を受け取る | 放電と逆向きの反応が進む。経年劣化まで戻すわけではない |
電気を使う「放電」では、両方の板に硫酸鉛ができ、液の硫酸の濃さが下がります。外から電気を入れる「充電」では、反応が逆に進み、板や液の状態が戻っていきます。
反応を逆に戻せるので、充電して繰り返し使えるんです。ただし、使ったり古くなったりして傷んだ分まで、全部直せるわけではありません。中の反応はGS Yuasaの技術解説でも説明されています。
ボルトくん
充電したら、中も新品に戻るの?
ハグルマ先生
電気を出し入れする反応は戻せますが、劣化までなくなるわけではないんですよ。充電できるかと、必要な性能が残っているかは別に見ます。
エンジン車とハイブリッド車では、充電方法が違う

Jeep 2.5Lの実物例。溝付きプーリーとケースが見えます。ベルトを通して作動している状態を示す写真ではありません。Jeep 2.5 liter 4-cylinder engine chromed e.jpg — CZmarlin — Christopher Ziemnowicz, releases all rights but a photo credit would be appreciated if this image is used anywhere other than Wikipedia. Please leave a note at Wikipedia here. Thank you! / 出典 / Public domain
エンジン車では、オルタネーターが発電する
多くのガソリン車やディーゼル車は、エンジンでオルタネーターを回して発電します。電装品へ送り、バッテリーにも充電します。発電の中身はオルタネーターの仕組みと役割で見られます。
充電を制御する車は、燃費なども考えて発電の状態を変えます。回っている間ずっと同じ電圧と電流で充電するとは限りません。短い距離ばかり走る、電装品を多く使うと、始動で減った分を補いきれないこともあります。
ハイブリッド車・EVにも、補機バッテリーがある
| 部分 | 受け持つ仕事 | 注意点 |
|---|---|---|
| 駆動用電池 | 走行用モーターへ電力を供給する | これだけで全制御機器を起動できるとは限らない |
| 補機バッテリー | 制御機器や灯火類など低電圧側を支える | 電圧・種類・搭載位置は車種による |
| DC-DCコンバーター | 高電圧側から低電圧側へ電力を変換する | 充電できる条件は車種の説明書で確認する |
ハイブリッドやEVにも、制御装置やライトを支える低電圧の電池があります。これが補機バッテリーです。走行用の大きな高電圧電池とは別です。12Vの鉛蓄電池を使うものが多いですが、種類と電圧は車によって違います。
多くの車では、DC-DCコンバーターという装置で高電圧の電気を低電圧へ変え、補機電池を充電します。エンジンが止まっていても、条件によって充電できるわけです。どんなときに充電するかは、車の説明書を確認します。
走行用電池に残量があっても、補機電池が弱ると、制御装置を起動できず走れない場合があります。プリウスの取扱説明書にも、補機電池の放電でシステムが始動しないことが説明されています。
ボルトくん
大きな電池に残ってるのに、走れなくなるの?
ハグルマ先生
小さな補機電池が弱ると、車の制御装置を起こせない場合があるんですよ。大きな電池の残量だけでは決まらないんです。
液式・EFB・AGMと、専用品の違い

バッテリー上面の実物例。液口栓や端子、注意表示を確かめます。この外観だけで全製品の補水可否を決めることはできません。Photo-CarBattery-top.jpg — Shaddack / 出典 / Public domain
補水できる製品か、説明を確かめる
液式は、反応する板を液体に浸した鉛蓄電池です。水を補充できるものと、利用者が補充できないものがあります。メンテナンスフリーという名前や見た目だけで判断せず、製品の説明を確認します。
補水できる製品で通常足すのは、指定の精製水です。減ったからといって、硫酸や電解液を勝手に足してはいけません。補水できないふたも開けません。液が下限より少ないなどの異常があれば、使ったり充電したりせず、販売店や整備工場へ相談します。パナソニックの補水に関する案内も参考になります。
EFBとAGMは、中の作りが違う
| 呼び名 | 基本の構造 | 交換時に見ること |
|---|---|---|
| 液式 | 液状の電解液へ極板を浸す | 補水できる製品か確認 |
| EFB | 液式を基本に充放電への対応を高める | 車両が指定した性能と適合 |
| AGM | ガラス繊維マットへ電解液を保持する | 充電方式・設置・排気の条件 |
- EFB(Enhanced Flooded Battery、性能を高めた液式電池):液式を基本に、充電の受け入れ性能や繰り返し充放電への耐久性を高めたタイプです。
- AGM(ガラス繊維のマットに液を含ませる方式):マットで電解液を保持します。自動車用では、制御弁がある鉛蓄電池に使われます。
EFBもAGMも、アイドリングストップ車などで使われますが、自由に交換できるわけではありません。車が指定する構造、性能、大きさに合うかを見ます。違いはGS YuasaのAGM・EFB解説で確認できます。
「密閉式」「ドライ」という名前だけでは選べない
密閉式といっても、ガスを一切出さないとは限りません。制御弁式は、中の圧力が高くなると、弁からガスを逃がします。
ドライバッテリーも、名前だけで液がない、必ず軽い、好きな向きに置けるとは判断できません。AGMなどの構造と、製品ごとの置き方の指定を確認します。
アイドリングストップ車用・ハイブリッド車用は用途の区分
何度も停止してかけ直す車には、それに耐える電池が必要です。専用品の指定があれば、大きさが同じでも、普通の車用へ替えてはいけません。
ハイブリッドの補機電池も、置く場所や、ガスを外へ逃がす方法まで合わせます。全部がAGM、全部が同じ品番とは限りません。構造の名前と、使う用途の名前を分けると分かりやすいです。
ボルトくん
AGMの方がよさそうなら、今の電池と替えていいの?
ハグルマ先生
まず車の指定に合うかですよ。大きさが合っても、充電の仕方や置く条件に合わなければ使えません。
Aは流れる電流、Ahは蓄えられる電気量
A、アンペアは、その瞬間に流れる電流の大きさです。Ah、アンペア時は、電流に時間を掛けた電気量。水で考えるなら、1秒あたりに流れる量と、容器へたまった合計量の違いに近いです。
5Aを10時間流せば50Ahです。ただし、50Ahの鉛蓄電池が、100Aで必ず30分使えるとは限りません。容量は、放電する時間、温度、測定を終える電圧などを決めて測ります。大きな電流では、取り出せる量も変わります。
公称12Vと50Ahを掛ければ、エネルギーの目安は600Whです。ただ、電圧は変わり、始動する性能も残す必要があります。全部使い切れる保証ではありません。CCAはCold Cranking Ampsの略で、寒い条件で始動する性能の、別の指標です。
ボルトくん
50Ahなら、50Aを1時間使っても大丈夫なの?
ハグルマ先生
容量には測る条件がありますよ。電流、温度、電圧の低下、劣化で使える量が変わるので、掛け算だけでは決まりません。
交換品は、サイズ以外も確かめる

交換品は、車名だけでなく、年式、型式、エンジン、アイドリングストップの有無も確認します。その上で、車メーカーの指定と電池メーカーの適合情報を照らします。
- 電圧、液式・EFB・AGMなどの指定
- ケースの大きさ、固定方法、端子の形状とプラス・マイナスの位置
- 必要な容量や始動性能、対応する規格
- 排気ホースの接続など、搭載場所に応じた条件
- 交換後の登録・初期化作業が必要かどうか
容量のAhと、寒いときの始動性能を示すCCAは、別々に確かめます。JIS型式の最初の性能ランクも、そのままAhではありません。数字が大きければ何でも付く、という選び方はできないんですね。
ボルトくん
大きさが同じなら、大きい数字の電池にすればいいの?
ハグルマ先生
種類、端子の位置、容量、始動性能、ガスの逃がし方も必要ですよ。交換後に、登録や初期化が必要な車もあります。
繰り返し上がるときは、発電機と配線も調べる

バッテリー上がりは、始動などに必要な電気を送れなくなった状態です。ライトの消し忘れや長い駐車で、充電が足りなくなっても起きます。一方、電池が劣化していれば、充電しても性能が戻りきりません。
発電機や配線に問題があれば、電池が正常でも充電不足になります。セルの回転が弱い、何度も上がるというときは、電池だけでなく充電の道も調べてもらいましょう。
電池マークの充電警告灯は、交換時期だけを知らせるものではありません。エンジンが動いているときや走行中に点いたら、安全な場所に止まり、説明書に従って販売店などへ連絡します。トヨタの警告灯の解説も、発電不足で上がる可能性を説明しています。
外の電源から電気を借りて始動を助ける方法を、ジャンプスタートと呼びます。実施できるか、どこへつなぐかは車によって違います。分からなければロードサービスや販売店へ相談しましょう。液漏れ、膨らみ、煙、異臭があれば、無理に始動や充電を試してはいけません。
普段の扱いはカーバッテリーのお手入れと点検の注意点、救援はジャンプスタートの可否と注意点も参考になります。実際の作業は、その車の取扱説明書を優先してください。
ボルトくん
新しい電池にしたら、何度も上がるのも直るの?
ハグルマ先生
発電機や配線が原因なら、新品もまた上がってしまいますよ。替える前に、原因を確かめることが大切です。
バッテリーのよくある疑問
電圧を測れば寿命が分かるの?
電圧は手がかりですが、測る条件で変わります。容量が減ったか、始動で力を出せるかまでは、それだけで分かりません。症状と使い方も含めて点検します。全車に同じ基準値を当てはめることはできません。
何年たったら交換するの?
製品、温度、走る距離と頻度、電装品の使い方で変わります。保証期間と寿命も同じではありません。車と製品の案内、点検結果から決めます。
しばらく走れば満充電になるの?
正常に充電していても、戻る量は電池の状態、走り方、使う電気で変わります。何分走れば必ず満充電、とはいえません。繰り返すなら、走るだけで解決しようとせず、点検を受けましょう。
ボルトくん
電圧が戻ったら、もう大丈夫なの?
ハグルマ先生
エンジンをかける性能が残っているかは、別に確かめますよ。何度も上がる、始動が弱いなら点検が必要です。
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