BMWの「ツインスクロールターボ」。ツインと聞くと、ターボが二つ付いていそうですよね。ところが、この名前で二つに分かれているのは別の場所です。排気の通り道を見てみましょう。
ツインスクロール、ツインターボ、TwinPower Turboの違い
ターボは、排気の流れで羽根車を回し、その軸につながる吸気側の羽根車で空気を押し込む装置です。ツインスクロールでは、排気側の羽根車へ向かう通路を二つに分けます。
エンジンには、燃料を燃やす「気筒」という筒があります。それぞれの筒から順番にガスが出るため、排気の勢いは一定ではありません。この強弱を使いやすいよう、通り道を分けます。ターボを二基使うツインターボとは、まず分けて考えましょう。
- ツインスクロール:タービンへ排気を導く通路を2系統に分けた構造です。
- ツインターボ:ターボチャージャーを2基使う構成です。
- BMW TwinPower Turbo:過給や燃料噴射などを組み合わせたBMWの技術名称です。名前だけでターボの基数や構造は決まりません。
ツインスクロールとツインターボを、両方使う構成もあります。BMWのV8にはツインスクロールターボを2基使う例がありますが、N55は1基です。名前だけで決めず、型式と年式で実際の構成を確認します。
採用された例は、BMWのN55の公式解説とM6 Gran Coupeの公式解説で確認できます。
ボルトくん
ツインなのに、ターボは一個でもいいの?
ハグルマ先生
二つあるのは排気の通路です。装置の数と、通路の分け方は別なんですよ。
まずは、排気と吸気を分けて見る
ターボには、排気で回される羽根車と、空気を押し縮める羽根車があります。この二つを一本の軸でつないでいます。排気側が回れば、その回転で吸気側も働くわけです。排気そのものを、そのままエンジンへ押し戻す装置ではありません。まずは、排気の道と、吸い込む空気の道を分けて見てください。
空気を増やし、それに合う燃料を燃やすことで、大きなトルクやパワーを取り出します。
空気と排気の流れや、過給(エンジンへ空気を押し込むこと)の仕組みは、ターボチャージャーの基本的な仕組みと種類で詳しく解説しています。
ボルトくん
二つに分けるのは、エンジンに入る空気なの?
ハグルマ先生
ツインスクロールで分けるのは、排気の通り道なんですよ。空気を圧縮する側と、排気で回る側を分けて見てみましょう。
排気の波を分けて、お互いに邪魔しにくくする

Renault F4Rt用として三菱が製造したツインスクロールターボの切断展示です。通路や羽根車の実物を見るための例で、BMW N55用の部品ではありません。Mitsubishi twin-scroll turbo 2.JPG — DmitryKo / 出典 / CC0。表示用に縮小・WebP変換。

三菱向けツインスクロールターボの実物例。排気側の通路を分ける考え方を見る素材で、BMW N55用の部品として表示していません。Mitsubishi twin-scroll turbo.JPG — DmitryKo / 出典 / CC0
排気は、ずっと同じ勢いで流れるわけではありません。各気筒の排気バルブが順に開くたび、圧力が波のように変わります。この波を「排気パルス」と呼びます。
ある筒がガスを出そうとしたとき、別の筒から来た高い圧力の波が重なると、ガスを出しにくくすることがあります。そこで、排気が来る時間を考えて通り道を分けます。
一つの通路へ全部集めると、ある気筒から来た圧力の波が、別の気筒の排気に影響します。そこでタイミングを考えて二組に分け、エンジンから集める管、マニホールドからターボ内部まで、別々の通路にします。
お互いに邪魔しにくくすると、圧力の波のエネルギーを、タービンを回すために使いやすくなります。二つの通路から来た排気で、同じ羽根車を回すのがポイントです。BorgWarnerのBMW向け技術解説も、この構造を説明しています。
二つの通路の大小だけで考えない

Hyundaiのツインスクロール部品の実物例。通路の分離を見る写真で、BMWと同じ寸法・形状・気筒の組み合わせという意味ではありません。Twin-scroll turbo T-GDI.jpg — DmitryKo / 出典 / CC0
製品によって通路やノズルの形を変える場合もありますが、基本は「排気の波を分けて、うまく使う」という考え方です。
「大きい通路が羽根の外、小さい通路が真ん中を回す」という説明を、全製品に当てはめることはできません。また、運転状態に合わせて通路の広さを変える、可変ジオメトリーターボとも別の仕組みです。
ボルトくん
通路が二つなら、羽根車も二つなの?
ハグルマ先生
排気側の羽根車は、同じタービンなんですよ。そこへ来るまで、気筒ごとの波がぶつかりにくいよう、通路を分けるんです。
N55は、直列6気筒の排気を三気筒ずつに分ける
N55は、BMWが2009年に発表した世代の、3.0L直列6気筒ガソリンエンジンです。前のN54はターボが2基でしたが、N55は1基のツインスクロールにしました。
当時のBMW資料は、6気筒の排気を3気筒ずつの二組にし、マニホールドとターボの中で別々に通す構造を説明しています。配置の基本は、シリンダー数と配列の基礎も参考になります。
全部のBMWが同じではありません。気筒数や世代で方式は変わります。N55の説明は、BMWのTechnology Day 2009の25〜28ページで確認できます。
直列4気筒では、組み合わせも変わる
2013年発表の328i Gran Turismoでは、1・4番と2・3番の気筒を、それぞれ別の通路へ導くと説明されています。6気筒の分け方を、そのまま4気筒には使えません。点火の順番と排気のタイミングに合わせて組み合わせます。
この4気筒の例は、BMWの3 Series Gran Turismoの公式解説の「Twin-scroll turbocharging」で確認できます。
次の表は、順番を仮定して、交互に二組へ分ける考え方を示しています。各車の指定値の一覧ではありません。実際の設計は、点火だけでなく、排気バルブが開く時期も見ます。
| 例 | 点火順序 | 通路の組 |
|---|---|---|
| 直列6気筒の仮定例 | 1→5→3→6→2→4 | 1・2・3/4・5・6 |
| 直列4気筒の仮定例 | 1→3→4→2 | 1・4/2・3 |
ボルトくん
四気筒なら、隣同士で二つずつ分ければいいの?
ハグルマ先生
近くに並んでいるかではなく、排気が来るタイミングで分けるんです。328iの例は、1・4番と2・3番ですよ。
低回転から、空気を押し込みやすくする
ねらいは、排気のエネルギーを効率よく伝えて、低回転から過給を始めやすくすることです。アクセルを踏んでから力が出るまでの遅れ、ターボラグを減らす工夫になります。
排気が互いに邪魔しにくいことは、気筒内のガスを入れ替える面でも有利です。エンジンと合うよう設計すれば、低回転で扱いやすいトルクや、効率の向上につながります。
ただし、応答にはターボの大きさ、回転部の動かしにくさ、配管、制御も関わります。どんなときも遅れゼロ、という保証ではありません。ほかの要素はGarrett Motionのターボラグ解説で確認できます。
ボルトくん
ツインスクロールなら、ターボラグはなくなるの?
ハグルマ先生
減らす工夫の一つなんですよ。羽根車や配管、制御も関わるので、全部の条件でゼロにはなりません。
背圧、燃費、修理費は、流路の数だけでは決まらない
排気干渉が減っても、背圧はなくならない
背圧は、エンジンが排気を押し出すときに関わる、排気側の圧力です。タービンが排気のエネルギーで仕事をするには、その前後に圧力差が必要です。
邪魔し合う流れや損失を減らせても、抵抗と背圧が全部なくなるわけではありません。触媒や配管も含む排気システム全体で考えます。原理はGarrett Motionの技術資料でも確認できます。
| 見るもの | 確認する内容 |
|---|---|
| 排気干渉 | 各通路へ届く排気のタイミング |
| 背圧 | タービンや排気通路を通る抵抗 |
| 燃費 | 燃焼、摩擦、過給制御、運転条件を含むエンジン全体 |
| 交換・修理 | エンジンとターボの型式、適合、周辺部品 |
燃費は、エンジン全体の技術で変わる
N55には、直接燃料を噴く直噴や、吸気バルブの開き量を変えるVALVETRONICも使われています。燃費や応答の変化を、二つの通路だけの効果として取り出すことはできません。
ツインスクロールにすれば燃料と空気の混ざり方が自動で薄くなるとか、点火時期が必ず同じ方向へ変わるわけでもありません。燃料は空燃比と運転状態に合わせて制御されます。
適合と修理費は、車両ごとに確かめる
二系統に分けるには、マニホールドとタービンのケースを、一続きの通り道として設計する必要があります。入口だけを二つにすれば、同じ働きになるわけではないんです。
場所をどれくらい使うか、修理費がいくらかも、エンジンの配置や部品のまとまり方、作業内容で違います。「必ず大きい」「必ず高い」と決めず、車台番号に合う部品と作業で確認しましょう。
ボルトくん
入口だけ二つにしたら、同じ効果が出るの?
ハグルマ先生
気筒からタービンまで、別々に流す設計が必要なんです。対応するマニホールドとケースがそろって初めて、その仕組みになりますよ。
気筒の近さより、排気が来るタイミングを見る
大切なのは、隣の気筒同士を二組にまとめることではありません。排気バルブが開くタイミングに合わせ、ほかの気筒へ圧力の波が干渉しにくい組み合わせを選びます。
2013年の328i Gran Turismoは、公式説明で1・4番と2・3番です。N55の6気筒は、3気筒ずつに分けます。数だけでなく、点火の順番、バルブの時期、タービンまでの通路を合わせて設計するわけですね。
入口に仕切りがあっても、手前で全部混ぜていれば、気筒から分ける設計と同じにはなりません。後付けの適合も、型式、マニホールド、ケース、制御の組み合わせまで確認します。入口の写真だけで、性能や互換性は決められません。
ボルトくん
四つなら、1・2番と3・4番に分けるほうが自然じゃないの?
ハグルマ先生
見るのは位置より、排気が来る時間なんですよ。328iの公式例は1・4番と2・3番ですが、組み合わせはエンジンごとに確認します。
よくある疑問
TwinPower Turboなら必ずツインスクロール?
BMWの技術名です。それだけで台数や構造は決まらないので、実際の型式と世代の資料を見ましょう。
ツインスクロールなら排気の抵抗はゼロ?
ゼロにはなりません。タービンを回すための圧力差や、触媒・配管の損失は残ります。邪魔し合う流れを減らすことと、抵抗を消すことは違います。
関連記事
ターボチャージャーの仕組みと種類|過給とターボラグの関係/空燃比とは?理論空燃比・リッチ・リーンとセンサーの働き/直列6気筒はなぜ滑らか?V6との構造・振動の違い
参考資料
- N55の公式解説
- M6 Gran Coupeの公式解説
- BorgWarnerのBMW向け技術解説
- Technology Day 2009
- 3 Series Gran Turismoの公式解説
- Garrett Motionのターボラグ解説
- Garrett Motionの技術資料
BMW:2014年モデル335i xDrive Gran TurismoとN55。関連する仕組みをメーカーの資料でも確認できます。




