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圧縮比とは?10:1の意味・計算・ノッキングと実効圧縮の違い

1998年トヨタD-4ガソリン直噴エンジンの展示
1998年トヨタD-4ガソリン直噴エンジンの展示。1998 Toyota D-4 Direct Injection 4 Stroke engine.jpg — Morio / 出典 / CC BY-SA 3.0。

エンジンの仕様にある「圧縮比10:1」。何が10倍になる数字なのでしょうか?

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圧縮比は、ピストンの二つの位置で容積を比べた値

シリンダーはピストンが往復する筒です。ピストンがシリンダーヘッドから最も離れた位置が下死点、最も近い位置が上死点。ピストンの上側の空間は、下死点で最大、上死点で最小になります。

この最大容積を最小容積で割った値が、一般に仕様表で示す幾何学的な圧縮比です。10:1なら、最大の空間が最小の空間の10倍という意味です。10気圧になる、空気の重さが10倍になる、という数字ではありません。

Pの上にある空間の容積が、ピストンの位置で変わります。上死点でも燃焼室の空間が残ります。
圧縮される空間
Pの上にある空間の容積が、ピストンの位置で変わります。上死点でも燃焼室の空間が残ります。Four stroke engine diagram.jpg — User:Wapcaplet / 出典 / CC BY-SA 3.0。

ボルトくん

圧縮比10なら、圧縮後の圧力も10倍になる?

ハグルマ先生

容積の比です。圧力は温度、入っている気体の量、バルブの時期、漏れなどにも左右されます。圧縮比と、測定する圧縮圧力を分けてください。

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排気量と、上死点で残る容積から計算する

1気筒500ccで、残る容積が50ccの例

ピストンが片道で押しのける容積をVd、上死点で残る空間をVcとすると、圧縮比=(Vd+Vc)÷Vcです。VdとVcは、同じ気筒の値を使います。

Vdが500cc、Vcが50ccなら、下死点では550ccなので550÷50=11。圧縮比は11:1です。500÷50=10とすると、下死点にも残っている50ccを数え忘れています。

バルブが閉じ、ピストンが上がる状態。圧縮比の計算では、上死点で残る容積も下死点の全容積へ含めます。
圧縮の基本図
バルブが閉じ、ピストンが上がる状態。圧縮比の計算では、上死点で残る容積も下死点の全容積へ含めます。Four stroke cycle compression.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。

ヘッドのくぼみだけを測る数字ではない

残る空間には、ヘッド側の燃焼室、ピストン上面の形、接合面とガスケットなどが関わります。ピストンの頂部にくぼみがあれば、その空間も関係します。ヘッドだけを削ったり、ガスケットだけを変えたりしても、圧縮比と部品間のすき間の両方を確認する必要があります。

ピストンの実物。上面の形は、上死点で残る容積と燃焼に関わります。この写真の圧縮比は画像から算定していません。
ピストン上面の形も関係する
ピストンの実物。上面の形は、上死点で残る容積と燃焼に関わります。この写真の圧縮比は画像から算定していません。Piston with rings.jpg — Anoopfrancis / 出典 / CC BY-SA 4.0。

ボルトくん

排気量500ccを残る50ccで割れば、圧縮比10じゃないの?

ハグルマ先生

最大容積は500ccに残る50ccを足した550ccです。その550を50で割るので11になります。押しのけた容積と、ピストン上の全容積を分けるのがポイントです。

高い圧縮比は、効率を高める余地がある

ガソリンエンジンでは、取り込んだ気体を圧縮し、燃焼で高温・高圧になったガスを膨張させて仕事を取り出します。理想化した同じ条件のサイクルでは、圧縮比を高めると熱効率を高められます。熱効率は、燃料のエネルギーのうち、取り出す仕事になる割合です。

実際のエンジンでは、燃焼、壁へ逃げる熱、摩擦、吸排気の負担などが加わります。数字を高くするだけで、同じ割合の燃費向上が得られるわけではありません。冷却と燃焼の設計を組み合わせます。

ボルトくん

圧縮比を11から12にすると、燃費も12÷11の分だけよくなる?

ハグルマ先生

比例する数字ではありません。理想的なサイクルの効率と、実車の損失は別です。実際の燃費は、使う負荷、回転数、車両条件まで含めて変わります。

ノッキングを抑えることが、重要な条件

混合気は通常、点火プラグから広がる炎で燃焼します。ノッキングは、その途中でまだ燃えていない混合気が自己着火し、強い圧力変動を生む異常燃焼です。圧縮によって温度や圧力が高くなると、この条件を管理する必要があります。

マツダのSKYACTIV-Gには、高圧縮比を実現するため、排気系、ピストン上面、噴射などを組み合わせた開発例があります。公表された14.0という値は、対象の仕様の例です。すべてのSKYACTIV-Gが同じ燃料と圧縮比ではありません。

ハイオクは、ノッキングへの抵抗を示すオクタン価が高い燃料です。燃料そのものが単純に強い爆発をするから高い圧縮比に使う、という説明は適切ではありません。指定燃料は車の取扱説明書で確認します。

ボルトくん

圧縮比が高いなら、絶対にハイオクが必要?

ハグルマ先生

圧縮比だけでは決まりません。燃焼室、噴射、温度、バルブの時期などを合わせて設計します。高圧縮比でもレギュラーを指定する例があるので、その車の燃料指定に従ってください。

容積の圧縮比と、実際に圧縮する状態は違う

吸気バルブの閉じる時期で変わる

ピストンが上がり始めても吸気バルブが開いていれば、気体の一部が吸気側へ戻る条件があります。すると、幾何学的な最大容積から、密閉した同じ量の気体をずっと圧縮するとは限りません。

吸気を閉じる時期を変え、実効的な圧縮を抑えながら大きな膨張を利用する設計があります。乗用車では、バルブ制御を使ったアトキンソンやミラーと呼ぶ方式がこの考え方に関係します。厳密な呼び分けは設計と資料により異なります。

下の図では、青い線が吸気バルブを遅く閉じる設定です。左のグラフで、青い線が高さゼロに戻る位置は、黒い比較用の線より右にあります。それだけ遅い時点まで、バルブが開いているという意味です。

右のグラフの「2」は、ピストンが下死点にあるときです。そこからピストンが上がり、容積が小さい「2′」になるまで吸気側へ気体を戻す条件を示しています。密閉した気体を圧縮し始める位置を変える考え方であり、ピストンが動く長さを変えた図ではありません。

左図:縦軸はバルブの開き量、横軸はクランクの回転角です。青いLIVCは遅閉じ、黒いBaselineは比較用の標準設定、赤いEIVCは早閉じ。右図:Pは圧力、Vは容積。下死点(BDC)の2から2′へピストンが上がる間も吸気側につながり、一部を戻した後で圧縮する考え方を示します。TDCは上死点。30°・31°はこの図の比較例で、全車共通の値ではありません。
吸気を閉じる時期と、実際に圧縮する容積
左図:縦軸はバルブの開き量、横軸はクランクの回転角です。青いLIVCは遅閉じ、黒いBaselineは比較用の標準設定、赤いEIVCは早閉じ。右図:Pは圧力、Vは容積。下死点(BDC)の2から2′へピストンが上がる間も吸気側につながり、一部を戻した後で圧縮する考え方を示します。TDCは上死点。30°・31°はこの図の比較例で、全車共通の値ではありません。© 2021 Luke Oxenham and Yaodong Wang, A Study of the Impact of Methanol, Ethanol and the Miller Cycle on a Gasoline Engine, Figure 1 / 出典 / CC BY 4.0。

ターボ車も、数字だけでは比べられない

ターボで吸気側の圧力を高めると、同じ容積へ入る気体の量と状態が変わります。自然吸気とターボの圧縮比の数字だけで、燃焼前の圧力やノッキングのしやすさを一律に比較できません。

ボルトくん

圧縮比が高いのに、実際の圧縮を弱めることもある?

ハグルマ先生

吸気を閉じる時期などで、圧縮する気体の状態を調整できます。大きな膨張で仕事を取り出すことと組み合わせ、効率を重視する設計があります。容積の比だけでは、その運転中の状態までわかりません。

よくある疑問

圧縮圧力を測れば、圧縮比がわかる?

直接同じものは測れません。回す速さ、温度、バルブ時期、漏れなどの影響を受けます。圧縮圧力の点検は、車種の条件と基準値で判断します。

ディーゼルも圧縮比を使う?

使います。圧縮で高温になった空気へ燃料を噴射して着火させるため、ガソリンの通常燃焼と条件が違います。圧縮比だけで両方式の優劣は決まりません。

圧縮比を上げる改造は簡単?

燃料、点火、すき間、温度、強度などの再確認が必要です。部品の容積だけを変えて完成する調整ではありません。

関連記事

排気量とボア・ストローク/吸気を閉じる時期/熱効率と損失

参考資料

  1. NASA:圧縮と膨張の基本
  2. マツダ:SKYACTIV-Gの高圧縮比に関する開発発表
  3. Honda:吸気タイミングと高膨張比
  4. トヨタ:負荷に応じたバルブ制御とサイクル
  5. Oxenham・Wang:吸気遅閉じの原理とバルブ時期・容積の比較(図1、2.1節)
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この記事を書いた人
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ハグルマ先生

メカニズモ編集長

2016年より自動車業界に携わり、輸入車ディーラーや中古車販売店などで実務経験を積む。

自動車専門ウェブメディアの運営にも携わり、業界で培った知識と講師としての経験を活かしながら、車の構造や部品、メンテナンスに関する情報を分かりやすく発信している。

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