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F1の1.6Lエンジンはなぜ高出力?2026年PUと旧世代の違い

展示されたMercedes-AMG F1 M10 EQ Power+パワーユニット
展示されたMercedes-AMG F1 M10 EQ Power+パワーユニット。Mercedes-AMG F1 M10 EQ Power+ at Formula 1 Exhibition, London.jpg — Hullian111 / 出典 / CC BY-SA 4.0。

F1は1.6Lなのに、どうしてあんなに速いのでしょうか?排気量だけを見ると、普通の乗用車にもありそうな数字です。でも、空気の入れ方も、回し方も、電気の使い方も、まるで違います。

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エンジン単体と、モーターを含む全体の馬力は違う

2007年のバルセロナ・モーターショーで展示されたFerrari F2007です。F1マシンの外観を見る写真で、2026年のパワーユニットを搭載した車として示しているわけではありません。
フェラーリF2007の実車展示
2007年のバルセロナ・モーターショーで展示されたFerrari F2007です。F1マシンの外観を見る写真で、2026年のパワーユニットを搭載した車として示しているわけではありません。070616 Ferrari F1 2007 01.JPG — Xavigivax / 出典 / CC BY-SA 3.0。表示用に縮小・WebP変換。

エンジンの中には「気筒」という筒があり、その中を「ピストン」という部品が行ったり来たりします。ピストンが片道を動いて押しのける空間を、全気筒分足した数字が排気量です。その大きさだけで、1秒間にどれだけの仕事ができるかまでは決まりません。空気を多く入れ、燃料を燃やし、効率よく速く仕事を繰り返せば、出力は変わります。

F1のパワーユニット(PU)は、ターボ付きのエンジンに、発電や駆動を行う電動装置などを組み合わせます。しかも仕組みは規則の世代で変わります。エンジン単体の話と、モーターを合わせた全体の話を分けることが大切です。

「F1は何馬力」という数字を見たら、まずエンジンだけなのか、モーターの助けも含んでいるのかを確認しましょう。何年の仕様で、どういう条件の数字かによっても、意味が変わります。

たとえば「840馬力」と書かれていても、すべてのF1エンジンに共通する決まりの数字ではありません。FIAは排気量やエンジンの構成、使える燃料や電気などを制限していますが、「どのメーカーも840馬力にそろえてね」という規則ではないんです。

馬力にはPSとhpなどの単位の違いもあります。比べるときはトルクと馬力の単位をそろえ、エンジンだけかPU全体か、どんな条件で測ったかも確認します。

ボルトくん

1.6Lなら、家の車と同じくらいなのに?

ハグルマ先生

筒の大きさが近くても、空気の入れ方や回転数、電動装置まで同じとは限りません。排気量は、性能を決める条件の一つなんですよ。

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ターボで、同じ排気量に多くの空気を送り込む

「1.6L」は、ピストンが一番上から一番下まで動いて押しのける空間を、全気筒分足した数字です。1秒間に吸える空気が1.6Lまで、という制限ではありません。一回に入れる空気を増やし、仕事を繰り返す回数を増やせば、同じ排気量でも、1秒あたりに取り出せる仕事は変わります。

そこでターボの出番です。排気の勢いで羽根を回し、その軸につながった反対側の羽根で空気を圧縮して送ります。自然に吸い込むより多くの空気を入れ、それに合う燃料を燃やせば、同じ排気量でも大きな力を出せるわけです。

ただし、「もっと空気を押し込めば、いくらでも速くなるぜ!」とはいきません。空気の熱さ、異常な燃焼、部品の強さ、冷やす能力に加え、F1では競技の規則もあります。空気と排気の通り道は、ターボチャージャーの仕組みで詳しく解説しています。

ボルトくん

1.6Lって、吸い込める空気の量じゃないの?

ハグルマ先生

ピストンが動いて変わる空間の大きさなんです。同じ空間でも、ターボで空気を押し縮めて送ると、入る空気の量を増やせますよ。

限られた燃料から、できるだけ大きな力を取り出す

F1では、燃料を好きなだけ増やすことはできません。だから、限られた燃料からどれだけ力を取り出せるかが勝負になります。燃料の噴き方や点火だけでなく、圧縮と膨張、空気や排気の流れ、部品の摩擦まで工夫して、無駄を減らしていきます。

メルセデスのF1チームは、旧世代のターボハイブリッドPUで、熱効率が50%を超えたと説明しています。これは「燃料が半分しか燃えない」という意味ではありません。燃料が持つエネルギーのうち、動力として使えた割合のことです。公表された説明はMercedes-AMG F1の技術説明で確認できます。

この数値を、すべてのメーカーが、どんな回転数や走り方でも達成していると考えることはできません。エンジンだけを測るか、PU全体で見るかでも話は変わります。動力にならなかったエネルギーの行き先は、エンジンの熱効率とエネルギー損失で紹介しています。

ボルトくん

50%だったら、残り半分の燃料は燃えないまま出ていくの?

ハグルマ先生

燃料の量を半分に分けているわけではないんです。燃えて生まれたエネルギーのうち、動力に変えられた割合が50%、という話ですよ。

限られた燃料から仕事を取り出すには、燃やす前の押し縮め方も関わります。押し縮める前後の空間の大きさの比が「圧縮比」です。これにも、世代で変わる規則があります。

2026年の規則では、幾何学的圧縮比の上限は16.0です。旧世代の説明で出てくる「18対1」を、そのまま2026年の規則の数字にはできません。圧縮比は空間の大きさの比であって、大きいほどピストンが遠くまで動く、という意味でもありません。出典:FIA 2026技術規則・C5

ボルトくん

前に見た「18対1」っていう数字も、そのまま使えないんだね!

ハグルマ先生

そうですね。参照した2026年規則では、上限は16.0です。何年の規則の話なのかも確認してくださいね。

高回転でも、回す力を保てるように作る

軸から取り出せる出力は、回す力であるトルクと、回転数の組み合わせで決まります。同じトルクを高回転まで保てれば、同じ時間にもっと多くの仕事ができます。F1はそのために、動く部品の強さと軽さ、オイルの働き、バルブの動き、燃焼のさせ方を高回転に合わせて作っています。

とはいえ、回転数を上げれば、ずっと力が増えるわけではありません。使える燃料、摩擦、吸気や排気の能力にも限界があります。規則で許される最高回転数と、実際にいちばん大きな力が出る回転数は、分けて考えましょう。

ボルトくん

回転数の上限まで回せば、一番速いんじゃないの?

ハグルマ先生

上限の回転数で、必ず最大の力が出るとは限らないんですよ。高回転でもトルクを保てるか、燃料をどれだけ使えるかにも関わります。

2025年までのPUは、MGU-KとMGU-Hを使う

Ferrari Tipo 065/6のエンジンと、Mercedes-AMG W10のMGU-Kなどを並べた展示。別メーカー・別仕様の部品で、一台のPUの接続を示す写真として使っていません。
エンジンと電動部品の歴史展示
Ferrari Tipo 065/6のエンジンと、Mercedes-AMG W10のMGU-Kなどを並べた展示。別メーカー・別仕様の部品で、一台のPUの接続を示す写真として使っていません。Ferrari Tipo 065-6 Engine and Mercedes AMG F1 W10 EQ Power+ MGU-K at Formula 1 Exhibition, London.jpg — Hullian111 / 出典 / CC BY-SA 4.0

2014〜2025年のハイブリッドPUは、電気を作ったり回転を助けたりする装置を2種類使っていました。MGU-KとMGU-Hです。それぞれ、つながっている場所と役割が違います。

  • MGU-K:減速するときなどに車輪側から回されて発電します。これが回生です。加速するときは、今度は電気を使って回転を助けます。2025年規則では出力上限は120kWでした。
  • MGU-H:ターボの軸と結び付き、排気で回される軸から電力を回収したり、電動でターボの回転を助けたりします。

MGU-Hは、タイヤを直接回すモーターではありません。ターボの軸で電気を回収したり、ターボの回転を助けたりして、PU全体を支えます。旧世代の構成と2026年の変更は、F1公式の2026年PU解説でも確認できます。

ボルトくん

MGU-Hも、タイヤを回してたの?

ハグルマ先生

つながっていたのはターボの軸なんです。そこで電気を取り出したり、ターボを回すのを助けたりしていましたよ。

2026年はMGU-Hがなくなり、電動側の役割が大きくなる

2026年も、エンジンの基本は1.6L、二列が90度に開いたV6ターボです。ただし、MGU-Hはなくなり、MGU-Kによる電動側の役割が大きくなりました。参照した規則では、ERS-Kの電気的な直流電力の上限は350kWです。

ここは少しややこしいのですが、350kWは「いつでも、そのままタイヤへ足せる力」ではありません。まず電気を回転する力に変える必要があり、さらに車速、走る区間、セッション、滑りやすい条件などでも、使える量に制限があります。

ボルトくん

350kWの力が、いつでもそのままタイヤに足されるの?

ハグルマ先生

規則の350kWは、電気の側の上限なんです。タイヤへ伝えるには回転する力に変えますし、速度や走り方による制限もありますよ。

電気をどこで回収し、どこで使うかも勝負になる

2019年Mercedes-AMG M10のERSバッテリー展示。蓄電装置の実物例で、2026年規則の容量や形を示す写真ではありません。
旧世代ERSバッテリーの実物
2019年Mercedes-AMG M10のERSバッテリー展示。蓄電装置の実物例で、2026年規則の容量や形を示す写真ではありません。Mercedes-AMG F1 M10 ERS Battery at Formula 1 Exhibition, London.jpg — Hullian111 / 出典 / CC BY-SA 4.0

モーターで加速を助けるときは、ためておいた電気を使います。強力なモーターがあっても、電気を無限に使えるわけではありません。どこで電気を回収し、どこで使うかによって、直線の加速や1周の走り方が変わります。

PUの性能は、一瞬の最大出力だけでは見えません。電気を回収し、ためて、使う流れや、熱を逃がす仕組みも関わります。「大きな力を出せること」と「必要な場所で、その力を使えること」の両方が大切なんですね。

ボルトくん

強いモーターでも、ずっと全開にはできないんだね!

ハグルマ先生

使える電気に限りがあるんですよ。どこで回収して、どこで加速を助けるかを組み合わせて、1周の走りを考えます。

kWは仕事の速さ、MJは使うエネルギーの量

kWは、どれくらいの勢いで仕事をするかを表します。MJは、使ったりためたりしたエネルギーの量です。水にたとえるなら、勢いよく出る水の流れと、タンクから出した水の総量を分けるようなもの。強い力を出せることと、長く使えることは別なんです。

計算だけの例なら、350kWを10秒間続けると3.5MJになります。ただし、「F1ならいつでも10秒間使える」という意味ではありません。電気を回転する力に変えることや、車速ごとの規則の制限は、別に考える必要があります。

参照した2026年技術規則Issue 20では、ERS-Kの直流電力上限は350kW、指定された場所で測る再充電量は原則1周8.5MJ以内です。再充電の上限には競技やセッションなどの条件があります。8.5MJは、バッテリー全体の大きさや、毎周必ず加速に使える量を表す数字ではありません。

ボルトくん

1周8.5MJって、バッテリーの大きさが8.5MJなの?

ハグルマ先生

その数字で制限しているのは、決められた場所で測る1周の再充電量なんです。バッテリーの容量や、一瞬に出せる力とは分けて読んでくださいね。

よくある疑問

1.6Lなら、市販車の1.6Lと同じ力?

排気量が表すのは、ピストンが動いて変わる空間の大きさです。空気を押し込む仕組み、燃料の量、回転数、効率、モーターの助けによって、同じ排気量でも出力は変わります。

2026年もMGU-Hを使う?

2026年はMGU-Hを廃止しています。2014〜2025年の説明と分けて読み、写真も何年のものか確認すると、構造を取り違えずに済みますよ。

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参考資料

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この記事を書いた人
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ハグルマ先生

メカニズモ編集長

2016年より自動車業界に携わり、輸入車ディーラーや中古車販売店などで実務経験を積む。

自動車専門ウェブメディアの運営にも携わり、業界で培った知識と講師としての経験を活かしながら、車の構造や部品、メンテナンスに関する情報を分かりやすく発信している。

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