エンジンの仕様にある「圧縮比10:1」。空気を10倍の強さで押すのでしょうか?実は、圧力をそのまま示した数字ではありません。まずは、ピストンの上の空間を比べてみましょう。
圧縮比は、ピストンの上下で変わる空間を比べる数字

BMC製エンジンの断面展示。中央にはピストンが並び、上側のヘッドと下側のクランク軸まわりにつながっています。bmc-cutaway — Victuallers; derivative background removal by Auge=mit and Scriptadd / 出典 / CC BY-SA 3.0
ピストンは、エンジンの筒の中を往復する部品です。下がると上側の空間が広がり、上がると狭くなります。圧縮比は、ピストンが一番下にあるときと、一番上にあるときの空間の大きさを比べた数字です。
10:1なら、広いときの容積が、狭いときの10倍ということです。空間を小さくしてから燃やすことは、エネルギーを取り出す効率にも関わります。ただし、高くすれば何でも解決という数字でもありません。
圧力が10気圧になる、空気が10倍の重さになる、という意味ではありません。比べているのは、あくまで空間の大きさです。

Pの上にある空間の容積が、ピストンの位置で変わります。上死点でも燃焼室の空間が残ります。Four stroke engine diagram.jpg — User:Wapcaplet / 出典 / CC BY-SA 3.0
ボルトくん
10:1なら、圧力も10倍なのかと思った!
ハグルマ先生
比べているのは空間の大きさです。押し縮めると温度も変わるので、圧力が同じ割合になるとは限らないんですよ。
排気量と、上死点で残る容積から計算する
1気筒500ccで、残る容積が50ccの例
計算では、二つの空間を分けます。ピストンが動いて増えたり減ったりする分がVd。一番上まで来ても残る分がVcです。一番下では両方あるのでVd+Vc、一番上ではVcだけ。だから圧縮比は「(Vd+Vc)÷Vc」になります。記号が並ぶと急に難しそうですが、広いとき÷狭いとき、という話です。
Vdが500cc、Vcが50ccなら、一番下では合計550cc。550÷50で、圧縮比は11:1です。500÷50で10と計算すると、一番下にも残っている50ccを忘れてしまいます。

バルブが閉じ、ピストンが上がる状態。圧縮比の計算では、上死点で残る容積も下死点の全容積へ含めます。Four stroke cycle compression.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0
ヘッドのくぼみだけでは決まらない
残る空間には、ヘッドのくぼみだけでなく、ピストンの上面、部品を合わせる位置、ガスケットも関わります。どこかを削ったり替えたりしたら、空間の比率だけでなく、部品同士の距離も確認が必要です。

ピストンの実物。上面の形は、上死点で残る容積と燃焼に関わります。この写真の圧縮比は画像から算定していません。Piston with rings.jpg — Anoopfrancis / 出典 / CC BY-SA 4.0
ボルトくん
500ccを50ccで割るから、10じゃないの?
ハグルマ先生
一番下の空間には、押しのけた500ccと、残る50ccの両方があるんですよ。550を50で割るので11です。ここが計算のポイントですね。
高い圧縮比は、効率を高める余地がある
ガソリンエンジンは、気体を押し縮め、燃やして熱くし、ガスが広がる力を取り出します。条件をそろえた理想の計算では、圧縮比を上げると熱効率を高められます。小さくした空間で燃やした後、ガスがより大きく広がる過程を使えるので、その間にピストンを押す仕事を取り出す余地が増える、という考え方です。熱効率は、燃料のエネルギーのうち、役立つ仕事にできる割合です。
実際には、燃え方、壁へ逃げる熱、部品のこすれ、空気や排気の出し入れに使う力も関わります。圧縮比の数字だけ上げれば、同じ割合で燃費がよくなるわけではありません。冷却と燃え方も合わせて考えます。
ボルトくん
11から12にしたら、燃費も12÷11の分だけよくなるの?
ハグルマ先生
そのまま比例するわけではないんですよ。理想の計算と、実車で失う分は別です。回転数、負荷、車の条件でも燃費が変わります。
ノッキングを抑えることが、重要な条件
通常は、点火プラグから炎が広がり、空気と燃料が混ざったものを燃やします。その途中で、まだ燃えていない部分が勝手に着火し、強い圧力の揺れを作るのがノッキングです。圧縮で熱と圧力が上がるので、これを抑える設計が必要になります。
マツダのSKYACTIV-Gには、高い圧縮比を使うために、排気の仕組み、ピストンの上面、燃料の入れ方を工夫した例があります。発表された14.0は、その仕様の例です。全部のSKYACTIV-Gが同じ圧縮比や指定燃料ではありません。
ハイオクは、ノッキングに耐えやすい、オクタン価の高い燃料です。強い爆発をするから使う、という意味ではありません。どの燃料を入れるかは、その車の指定に従います。
ボルトくん
圧縮比が高かったら、絶対にハイオクなの?
ハグルマ先生
圧縮比だけでは決まらないんですよ。燃焼室、燃料の入れ方、温度、バルブの時期も合わせて設計します。レギュラーを指定する高圧縮比の車もあるので、その車の指定を見ましょう。
空間の比率と、実際に圧縮する状態を分ける
吸気バルブの閉じる時期で変わる
ピストンが上がり始めても入口が開いていると、条件によって空気が入口へ戻ります。つまり、一番広い空間に入った気体を、そのままずっと閉じ込めて圧縮するとは限りません。
入口を閉じる時期を変え、実際の圧縮を抑えつつ、大きく膨張する力を使う設計があります。バルブ制御を使うアトキンソンやミラーと呼ばれる方式が、この考え方に関係します。細かな呼び分けは、設計と資料によって違います。
この比較図は少し込み入っているので、まず青い線だけ見てください。青は、吸気バルブを遅く閉じる設定です。赤い線と細かな数字は、ここでは追わなくても大丈夫です。左のグラフで青い線が高さゼロになる場所は、黒い線より右。つまり、それだけ遅くまでバルブが開いています。
右のグラフの2は、ピストンが一番下にあるときです。そこから上がって、空間が狭い2′になるまで、気体を入口へ戻す条件を表しています。閉じ込めて圧縮し始める位置を変える図で、ピストンの動く距離を変えた図ではありません。

左はバルブの開き量とクランク角の関係です。青のLIVCは遅閉じ、黒は基準、赤のEIVCは早閉じ。右は圧力Pと容積Vです。ピストンが下死点BDCの2から2′へ上がる間も吸気側につながり、一部を戻してから圧縮します。TDCは上死点。30°・31°はこの比較例の値です。© 2021 Luke Oxenham and Yaodong Wang, A Study of the Impact of Methanol, Ethanol and the Miller Cycle on a Gasoline Engine, Figure 1 / 出典 / CC BY 4.0
ターボ車も、数字だけでは比べられない
ターボで入口の圧力を上げると、同じ空間に入る空気の量と状態が変わります。自然吸気とターボを、圧縮比の数字だけで比べても、燃える前の圧力やノッキングの起きやすさは分かりません。
ボルトくん
圧縮比が高くても、実際の圧縮は弱くすることがあるの?
ハグルマ先生
入口を閉じる時期などで、圧縮する気体の状態を調整できるんですよ。大きく膨張する力と組み合わせて、効率を高める設計があります。
よくある疑問
圧縮圧力を測れば、圧縮比がわかる?
圧縮圧力から、圧縮比をそのまま測ることはできません。回す速さ、温度、バルブの時期、漏れでも変わります。点検は、その車の測る条件と基準値で判断します。
ディーゼルも圧縮比を使う?
ディーゼルにも圧縮比があります。空気を圧縮して熱くし、入れた燃料に火を付けるので、ガソリンとは条件が違います。数字だけで、どちらが優秀かは決まりません。
圧縮比を上げる改造は簡単?
簡単に数字だけ上げる調整ではありません。燃料、点火、部品同士の距離、温度、強さまで確認し直す必要があります。




