バルブの説明に出てくる「上死点前」「下死点後」「オーバーラップ」。時計の時刻とは違う、この表し方を見ていきましょう。
バルブタイミングは、開閉する時期を角度で示す
吸気バルブは空気などを入れる通路、排気バルブは燃焼後のガスを出す通路を開閉します。タイミングは、ピストンの動きに対して、いつ開き、いつ閉じるかを示すものです。
エンジンの回転は変わるので、「何秒後」より回転軸の角度で表す方が位置関係を整理できます。4ストロークでは、クランクシャフト二回転、角度では720度で吸気から排気までを一巡します。カムシャフトの角度を使う資料もあるため、数字の基準を確認します。

Pがピストン、Vがバルブ、Cがクランクシャフト。タイミングは、それぞれの動きの位置関係を表します。Four stroke engine diagram.jpg — User:Wapcaplet / 出典 / CC BY-SA 3.0。
ボルトくん
720度というのは、バルブが二回転するということ?
ハグルマ先生
4行程を終える間のクランクの回転角です。ピストンは二往復し、一般的なカムは一回転します。角度がどの軸のものかを分けて読んでください。
上死点と下死点を、角度の目印にする
ピストンが折り返す二つの位置
ピストンがシリンダーヘッドへ最も近づく位置が上死点、最も離れる位置が下死点です。水平対向でも同じ呼び名を使いますが、車の上下を意味するわけではありません。
4ストロークの途中で上死点は二回あります。圧縮の終わりの上死点と、排気から吸気へ移る上死点です。どちらを指すかまで確認しないと、吸気の開始と点火時期を取り違えます。

両バルブを閉じてピストンが上がる基本図。この後の上死点は、排気から吸気へ移る上死点とは別の場面です。Four stroke cycle compression.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。
「前」「後」は、回転が進む順番
| 英語資料の略号 | 日本語での意味 |
|---|---|
| BTDC | 上死点前:その上死点へ届く前 |
| ATDC | 上死点後:その上死点を通過した後 |
| BBDC | 下死点前:下死点へ届く前 |
| ABDC | 下死点後:下死点を通過した後 |
上死点前10度なら、クランクがあと10度回ると、その上死点に届く位置です。下死点後40度なら、下死点を通過して40度回った位置。英語資料のBTDCは上死点前、ATDCは上死点後、BBDCは下死点前、ABDCは下死点後を示します。
ボルトくん
上死点前は、エンジンの前側という意味?
ハグルマ先生
回転の順番で、上死点へ着くより前という意味です。車の前後ではありません。圧縮側か、排気と吸気の切り替わり側かも合わせて読みます。
実際のバルブは、端ぴったりで開閉しないことがある
吸気は、ピストンが下がる間だけとは限らない
基本図では、上死点で吸気を開き、下死点で閉じるように描きます。しかし、気体の流れには勢いがあります。下死点を過ぎても空気が入り続ける条件なら、吸気をすぐ閉じないことで多くの空気を取り込める場合があります。
反対に、低回転などで開けすぎると、シリンダーから吸気側へ戻る流れが起きることがあります。吸気の閉じる時期は、実際に中へ残る空気と、圧縮し始める状態に関係します。

開いた吸気バルブから気体が入る既存図。実際の開閉は、流れの勢いと圧力に合わせてこの基本時刻から変わります。Four stroke cycle intake.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。
排気を早く開くと、圧力を先に逃がせる
膨張の終わりに排気バルブを開くと、シリンダー内の高い圧力によってガスが先に流れ出します。ピストンが押し出す排気の負担を減らす一方、早すぎれば膨張から取り出せた仕事の一部を失います。

排気バルブが開いた基本図。実際には、ピストンが上がり始める前に開く設計もあります。Four stroke cycle exhaust.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。
ボルトくん
下死点を過ぎたらピストンが上がるのに、吸気が開いていて大丈夫?
ハグルマ先生
気体の流れと圧力の条件によっては、しばらく空気が入り続けます。ただし、逆流する条件もあります。回転数や負荷に合わせて閉じる時期を選ぶ理由が、ここにあります。
オーバーラップは、吸気と排気が同時に開く期間
排気の終わりから吸気の始まりにかけ、両方のバルブが開いている期間をオーバーラップといいます。Overlapは重なるという意味です。排気の流れや圧力の波を利用し、新しい空気を入れる働きに役立つ場合があります。
ただし、条件によっては排気が吸気側へ戻ったり、新しい気体が排気側へ抜けたりします。吸排気の圧力、過給の有無、回転数で結果が変わります。オーバーラップを増やせば常に出力が増える、という理解では不十分です。
排気がシリンダーへ残る量を調整し、排出ガスやポンピング損失を制御する目的でも使います。ポンピング損失は、気体を出し入れするときに使う仕事です。速く走るためだけの設定ではありません。
ボルトくん
入口と出口が一緒に開くのは、閉め忘れ?
ハグルマ先生
設計された期間です。気体の流れを利用したり、残る排気の量を調整したりします。ただし、圧力条件によって働きが変わるので、長いほどよいわけではありません。
タイミング表を読むときは、測定基準をそろえる
例えば、吸気が上死点前10度で開き、下死点後40度で閉じると仮定すると、クランク角で開く期間は10+180+40=230度です。これは読み方を示す計算例で、実際の車の指定値ではありません。
実際のバルブは少しずつ開きます。どれだけ開いた時点を「開き始め」と数えるかで、資料の作用角は変わります。バルブの開いた量をリフトといい、一定の測定リフトを基準にする仕様があります。違う基準の数値をそのまま比較しないでください。
可変機構のあるエンジンでは、タイミングも一つの固定値ではありません。カムの位相を変えるだけなら、同じ形の山を使いつつ、開く時期と閉じる時期を一緒にずらします。
ボルトくん
作用角が230度のカムなら、別の230度のカムと同じ?
ハグルマ先生
測定するリフト量や角度の基準が同じか確認します。同じ作用角でも、最大リフトや途中の開き方は違う場合があります。数字の条件をそろえることが先です。
よくある疑問
進角は、点火とバルブで同じ意味?
時期を早い側へ動かすという言葉の意味は共通しますが、動かす対象が違います。点火プラグの火花と、カムによるバルブ開閉を混同しないようにします。
バルブタイミングがずれると何が起きる?
充填や排気が意図した状態から外れ、出力低下や始動不良などにつながります。大きな機械的ずれでは、設計によってピストンとバルブが接触する場合があります。
アイドリングが不安定なら、オーバーラップが原因?
それだけでは決まりません。点火、吸気漏れ、燃料供給などでも起きます。改造の有無と、実際のカム位置を含めて診断します。




