エンジンには「可変バルブタイミング」という仕組みがあります。バルブの何を、どのように変えているのでしょうか?
変えるのは、空気の入口と排気の出口を開く時期
吸気・排気バルブは、シリンダーにつながる通路を開閉する部品です。シリンダーの中ではピストンが往復し、上がる途中、下がる途中、端へ来たときで、気体の流れや圧力が変わります。そこで、バルブをいつ開き、いつ閉じるかが重要になります。
この開閉時期がバルブタイミングです。可変というのは、走行中の回転数や負荷などに合わせて、決められた範囲で時期を変えること。時間を変える機構と、バルブが開く量を変える機構は、別の働きとして区別します。

ヘッド内のカムシャフトとチェーン。カムの回転位置が変わると、ピストンの位置に対するバルブの開閉時期も変わります。写真だけで可変機構の型式は断定しません。Albero a camme e catena di distribuzione in testata di motore automobile – particolari.jpg — Anna.Massini / 出典 / CC BY-SA 4.0。
ボルトくん
可変バルブタイミングは、バルブを大きく開く仕組み?
ハグルマ先生
ここでは開閉する時期をずらす方式を説明します。開く量はリフトといい、別の可変機構で変える場合があります。可変という言葉だけで、何が動くのかを同じにしないことが大切です。
同じ開閉時期では、すべての運転状態に合わせにくい
流れる空気にも、勢いがある
空気はバルブを開いた瞬間に、必要な量がすべて入るわけではありません。通路を流れる気体には勢いがあり、圧力の波も生まれます。回転が速いときと遅いときでは、ピストンが次の位置へ進むまでの時間も違います。
高回転で空気を十分に入れる開閉時期が、低回転や軽い負荷でも最適とは限りません。アイドリングの安定、燃費、出力、排出ガスなどを合わせて、必要な時期を選びます。高回転なら常にすべてを遅らせる、といった一つの規則では説明できません。

吸気の基本図。実際は、空気の流れや圧力を利用するため、ピストンが端へ来る時刻とバルブの開閉は一致しない場合があります。Four stroke cycle intake.png — Wapcaplet at English Wikipedia / 出典 / CC BY-SA 3.0。
ボルトくん
空気を入れるなら、とにかく長く開けておけばよくない?
ハグルマ先生
長く開けると、運転状態によっては逆向きの流れや排気との重なりが増えます。吸い込み始める時期と、空気を閉じ込める時期を、回転数や負荷に合わせて決めます。
位相可変は、同じカム山の出番を前後させる
クランクに対する、カムの回転位置を変える
位相は、繰り返す動きの中で「どの位置まで進んだか」を表す言葉です。ここでは、ピストンを動かすクランクシャフトに対して、カムがどの角度まで回っているかを示します。
位相を変える機構は、カムを駆動する歯車やプーリー側と、カム軸との間に相対的な回転を与えます。演劇で同じ長さの場面を、予定より早く始めたり遅く始めたりする感覚に近いでしょう。同じカム山を使うだけなら、山の高さと形はそのままです。

日産VQ35HRの可変タイミング機構を示す展示。吸気側と排気側で機構が異なる実例で、両方を同じ油圧構造として扱いません。nissan-vq35hr-vvt — 160SX / 出典 / CC BY-SA 3.0。
進角と遅角を、開く時期だけで読まない
| 同じ形の吸気カムの位相を動かす場合 | 開く時期 | 閉じる時期 |
|---|---|---|
| 進角:早い側へずらす | 早くなる | 早くなる |
| 遅角:遅い側へずらす | 遅くなる | 遅くなる |
開閉時期を早い側へずらすことを進角、遅い側へずらすことを遅角といいます。同じ形の吸気カムを進角すれば、開く時期だけでなく閉じる時期も早い側へ動きます。吸気の終わり方も変わるため、入口を開く瞬間だけ見て性能を判断しないでください。
ボルトくん
カムを進角すると、早く開くだけで閉じる時期は同じ?
ハグルマ先生
同じ形のカム全体を回転方向へずらすなら、開く時期と閉じる時期の両方が早い側へ動きます。開いている期間や開く量を変える方式とは分けて考えます。
油圧式と電動式は、どうやって動かす?
油圧式では、オイルの圧力を使って、可変機構の内部を動かします。ECUという制御用コンピューターが、オイルコントロールバルブなどを通じて油の流れを調整します。機構内の形状や、停止時の固定方法は設計ごとに違います。
電動モーターでカムの位置を調整する方式もあります。トヨタのVVT-iEのEは電動を示す表記です。油圧式と電動式では、始動時や低回転時に使える制御範囲などが変わりますが、「電動だからすべての面で上」とは決められません。
ECUは、クランクとカムの位置を検出するセンサーも使い、目標の位置と実際の位置を確かめます。アクセルの操作だけで、カムが決まった角度へ固定される仕組みではありません。
ボルトくん
オイルは部品を滑らせるだけじゃなく、カムを動かすのにも使う?
ハグルマ先生
油圧式ではそうです。油の圧力を機構の作動に使います。そのため、量、粘度、汚れ、油路の状態が作動へ影響します。電動式など、動かす方法が違うものもあります。
実際の車では、出力と燃費の両方に関わる
トヨタが1995年に公表したVVT-iは、運転状態に応じて吸気カムの時期を制御する技術でした。後のDual VVT-iは吸気と排気の両側を制御し、VVT-iWは広い範囲の吸気タイミング制御を使うなど、同じ系列でも役割と範囲が変わります。
吸気を閉じる時期を変え、実際に圧縮する空気の量を調整する設計もあります。軽い負荷では効率を重視し、大きな負荷では必要な力を取り出す、という切り替えに使えます。これは幾何学的な圧縮比の数字を機械的に変えることとは別です。
不調が起きると、警告灯、出力低下、アイドリングの乱れなどにつながる場合があります。ただし、同じ症状は点火や吸気の不具合でも起きます。故障コードだけで可変機構本体を交換せず、オイル、制御弁、センサー、機械的な同期などを調べます。
ボルトくん
VVTは高回転で速く走るときだけ働く?
ハグルマ先生
燃費、排出ガス、低回転の使いやすさにも関わります。吸気を閉じる時期や吸排気の重なりを変え、運転状態に合わせます。故障の判断も、機構だけでなく油や制御の状態を調べます。
よくある疑問
VVT-iとVTECは同じ?
同じではありません。代表的なVVT-iはカムの位相を変え、初期のDOHC VTECは異なるカムの動きを切り替えます。併用する設計もあります。
可変機構があればタイミングベルトは不要?
別の問題です。カムとクランクを同期させる駆動部は必要です。ベルト、チェーン、歯車などのどれを使うかはエンジンごとに違います。
進角は、いつでもトルクを増やす?
増えるとは限りません。回転数、負荷、吸排気の圧力、閉じる時期などの組み合わせで変わります。単に早いほどよい、遅いほどよいという仕組みではありません。
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