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多段ATの仕組み|トルクコンバーター・遊星歯車・油圧制御を解説

Ford Territoryのエンジンと変速機を見せる車体断面展示
Ford Territoryのエンジンと変速機を見せる車体断面展示。2004 Ford Territory (SX) TS wagon, cutaway (2015-01-01) 06.jpg — OSX / 出典 / Public domain。

ATは勝手にギアを変えてくれます。便利すぎて、中で何が起きているのか忘れがちですよね。今回は、トルクコンバーターと遊星歯車を使う、多段ATの中を見ていきましょう。

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ATは、発進・変速・制御を分けると分かる

ATは、発進や変速の操作を自動で行う変速機です。ここで説明する多段ATでは、エンジンとの間に、オイルの流れで力を渡すトルクコンバーターがあります。止まった状態からの発進を助ける装置です。

その先には、複数の歯車を組み合わせた仕組みがあります。どの部分を動かし、どこを止めるかを、中のクラッチやブレーキで切り替えます。これで、エンジンからタイヤ側へ伝わる回転の割合を変えています。

まずは、発進・変速・制御という三つの仕事に分けてみましょう。自動で変速する車が、全部この中身とは限りません。

ボルトくん

車のブレーキが、箱の中にも入ってるの?

ハグルマ先生

ここでいうブレーキは、変速機の中の特定の部品を止める装置です。タイヤを止めるブレーキとは、取り付く場所も役目も違いますよ。

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多段ATを支える三つの部分

ATをひと塊の箱として見ると、中が全部同じ仕事をしていそうですよね。でも、止まった車の発進を助ける部分と、走りに合わせてギア段を変える部分は別です。さらに、それらへ動くよう指示し、オイルの圧力を調整する部分もあります。まずは、この三つに分けてみましょう。

トルクコンバーター式多段ATの主な役割分担
部分 主な役割 運転中に関係する場面
トルクコンバーター 流体で力を伝え、エンジン側と変速機側の回転差を許容する 発進、停車、低速走行
遊星歯車とクラッチ・ブレーキ 部品同士をつなぐ場所と、止める場所を変え、1速・2速などを作る 加速、巡航、後退
電子制御と油圧機構 走行状態から変速を判断し、摩擦要素の圧力を調整する 変速タイミング、変速の滑らかさ、保護制御

トルコンだけで1速から8速ができるわけではありません。また歯車で段を作れても、止まったタイヤと回るエンジンを、なめらかにつなぐ装置が必要です。

ボルトくん

トルコンが、ギアも変えてくれるの?

ハグルマ先生

段を作るのは、歯車とクラッチ、ブレーキですよ。トルコンは主に、発進などで回る速さの違いを扱うんです。

オイルで滑らかに発進し、ロックアップで損失を抑える

複数の羽根車を持つ実物展示。変速段を作る歯車とは別の役割です。
発進時の回転差を扱うトルクコンバーター
複数の羽根車を持つ実物展示。変速段を作る歯車とは別の役割です。Torque-converter.jpg — Comyu / 出典 / CC BY-SA 3.0

エンジン側のポンプインペラが油を動かし、タービンランナーが受けて回ります。その回転が変速機へ入ります。油を介すので、二つは同じ速さでなくても力を渡せます。

そのため、エンジンを回したままDで停車できます。ブレーキを緩めてゆっくり進むクリープにも関わります。ただし、どれくらい、いつ進むかは車の制御で違います。

戻るオイルの向きをステーターが整える

Aがポンプ、Bがステーター、Cがタービン。Dは入力、Eは出力です。赤い矢印は流体の流れで、歯車の変速経路ではありません。
オイルが循環するトルクコンバーターの断面
Aがポンプ、Bがステーター、Cがタービン。Dは入力、Eは出力です。赤い矢印は流体の流れで、歯車の変速経路ではありません。Torque converter a cross section.png — Toshinori baba / 出典 / CC BY-SA 4.0

タービンから戻る油の向きを整えるのがステーターです。発進などで回転差が大きい間は、流れを受け止めて向きを変え、出口側のトルクを増やせます。

エネルギーが増えているわけではありません。出口をゆっくり回す条件で、入口より強く回す力を得ています。回転差が減れば、その働きも弱まります。油の流れはトルクコンバーターの構造で詳しく説明しています。

条件が整えばロックアップで機械的につなぐ

ロックアップ前後で変わること
状態 主な動力伝達 残る損失
流体で伝達 ポンプからオイルを介してタービンへ 回転差や流れによる損失
完全にロックアップ クラッチで機械的に結ぶ 内部の摩擦・油圧を作る負担など

油で伝えるときは、回転差による損失と熱が出ます。そこで条件がそろえば、ロックアップクラッチで直接つなぎます。

完全につなげば、ポンプとタービンの回転差で失う分を抑えられます。ただ、歯車のこすれやオイルポンプの負担までゼロにはなりません。振動を和らげるため、少し滑らせる制御もあります。

高速道路だけで働くものでもありません。例えばマツダのSKYACTIV-DRIVEの技術資料は、低速まで使う範囲を広げています。何km/h、何速、どんな油温で使うかは、車と制御によって違います。

ボルトくん

油で伝えるなら、ずっと滑りながら走るの?

ハグルマ先生

条件がそろうと、クラッチで直接つなぐんですよ。完全につなぐ場合も、少し滑らせる場合もあります。働く条件は、車ごとに違います。

遊星歯車は、つなぐ部品と止める部品で働きが変わる

リングを固定し、サンから入力し、キャリアから出力する構成例。図の回転関係はこの条件に対応し、すべてのATの比ではありません。
外周を固定した遊星歯車の図
リングを固定し、サンから入力し、キャリアから出力する構成例。図の回転関係はこの条件に対応し、すべてのATの比ではありません。Planetary gear set schematic fixed ring.svg — DaveRcWiki / 出典 / CC0
S:サン、R:リング、C:キャリア。緑の小歯車がプラネタリーギア。Brakeは部品を固定する内部ブレーキ、InputとOutputは入力と出力です。特定の8HP全体を示す図ではありません。
遊星歯車の構造図
S:サン、R:リング、C:キャリア。緑の小歯車がプラネタリーギア。Brakeは部品を固定する内部ブレーキ、InputとOutputは入力と出力です。特定の8HP全体を示す図ではありません。Planetary gear set schematic.svg — DaveRcWiki / 出典 / CC0

基本の遊星歯車には、真ん中のサンギア、外のリングギア、間の小さな歯車、それを支えるキャリアがあります。小歯車は自分で回りながら、中心の周りも回れるので、遊星と呼びます。

中心、外側、キャリアのどこへ力を入れ、どこから取り、どこを止めるかで、回る速さが変わります。例えば外を止め、中心を回してキャリアから取り出せば、同じ向きに減速します。

実車では、この仕組みを複数使います。歯車を掛け替えるより、クラッチでつなぐところと、ブレーキで止めるところを変えて段を作ります。歯数と回転数は遊星歯車と変速比の原理で解説しています。

クラッチペダルがなくても、中にはクラッチがある

Lexus IS Fの8速ATの実物断面。写真から、各ソレノイドや油路の位置を推測して付記していません。
歯車と制御を一体に収めるAT
Lexus IS Fの8速ATの実物断面。Automatic transmission cut.jpg — Silverxxx (talk) 04:33, 1 March 2009 (UTC) / 出典 / CC BY-SA 3.0

ATも、中にはクラッチがいくつもあります。回る部品同士をつなぐのがクラッチ、部品をケースへ固定するのが内部ブレーキです。タイヤを止めるブレーキとは、別のものです。

湿式多板クラッチは、油の中で何枚もの摩擦板を押し付けます。固定用ブレーキにも多板式があり、すべてが帯状のバンドを使うわけではありません。

ギア段と歯車の組数は、別です。ZFの8HPの製品解説には、4組のギアセット、3個の多板クラッチ、2個のブレーキを使う例があります。8速だから8組必要、というわけではありません。

ボルトくん

8速なら、歯車のセットも8組あるの?

ハグルマ先生

一組で一段とは限らないんですよ。複数を組み合わせ、どこをつなぎ、どこを止めるかで、いろいろな段を作ります。

オイルの圧力と電子制御で、変速の感触を整える

コンピューターは、車速、アクセル、エンジン、入口と出口の回転数、油温などを見て、ギアとロックアップを決めます。電気で動くソレノイドバルブなどの弁が、油の送り先と圧力を変えます。その油がピストンを押し、クラッチや内部ブレーキの板を押し付けたり緩めたりします。

変速では、それまでの板を緩め、次の段の板をつなぎます。早く強くつなぎすぎれば衝撃が出やすく、遅ければエンジン回転が一時的に上がりやすい。力と時間の合わせ方が、あの変速の感触を作るんです。

エンジン側も、変速中のトルクを調整することがあります。なめらかさは歯車だけで決まりません。同じ系列の変速機でも、エンジンと車の制御で乗り味が変わります。

キックダウンや手動モードでは何が起きるの?

変速の指示と、機械の動作
操作・判断 起きること 条件
キックダウン 低い段へ変え、加速に合う回転域へ移る 車速やアクセルなどから制御装置が判断
手動モードの指示 指定した段への変速を求める 過回転などになる要求は受け付けない場合がある

アクセルを大きく踏み、低い段へ切り替えるのがキックダウンです。タイヤ側の力を増やし、加速しやすいエンジン回転へ移します。一度に複数段を下げることもあります。

パドルや手動モードでは、自分で変更を指示できます。ただし車が必ず受け付けるわけではありません。速く走っているのに低すぎる段へ入れるなど、部品を傷める操作は制限することがあります。動きは説明書で確認します。

ボルトくん

手動モードなら、いつでも好きなギアにできるの?

ハグルマ先生

部品を守るため、受け付けない指示もあるんですよ。例えば車速に対して低すぎる段です。その車の説明書で動きを確認しましょう。

段を増やすと、発進の力と高速での低回転を両立しやすい

発進では強く、速度に乗ったら低いエンジン回転で走りたい。多段化は、その広い範囲を作りつつ、隣の段との差を小さくできます。使いたい回転数へ合わせやすく、変速前後の回転差も調整できます。

ただ段数を増やせば、燃費も加速もよくなるとは限りません。一番下から上までの比率、隣の段との間隔、車の重さ、損失、制御も関係します。何速かだけで、別の車は比べられません。

トルコンATは、なめらかな発進と、段を変える感触を両立しやすい方式です。一方、油で伝え、油圧(オイルの圧力)を作る負担と、複数の板を精密に動かす難しさがあります。ロックアップや油圧の改良で、そのむだを減らしています。

ボルトくん

段が多いATなら、必ず燃費がいいの?

ハグルマ先生

範囲や間隔、車の重さ、損失、制御も見ないと決まらないんですよ。段数は、見る項目の一つです。

ATFの指定と、変速の変化を確認する

ATFはAutomatic Transmission Fluidの略です。歯車を守るだけでなく、油圧で部品を動かし、トルコンで力を渡し、摩擦板を冷やします。一人何役も受け持つ油なんですね。

合わない油や油量は、板の摩擦や油圧の調整を変えてしまいます。色だけで判断せず、指定品と点検、交換の条件を確認します。全ATへ同じ交換距離や寿命を当てはめることはできません。

急に変速の衝撃が強くなる、警告が出る、回転だけ上がって加速しないなどは、無理に走らず点検を頼みます。油やトルコンだけに決めつけず、起きた車速や温度も伝えましょう。

ボルトくん

赤いATFなら、どれでも入れていいの?

ハグルマ先生

色だけでは決まりませんよ。板の摩擦と油圧に合う指定品を使い、量と点検の条件も合わせます。

油は、滑らせる部分と、滑らせたくない部分を受け持つ

ロックアップしていないトルコンは、回転差を使って油で伝えます。一方、変速用クラッチがつながった後は、滑らずに必要な力を受け止める必要があります。

同じ油でも、場所によって滑りの扱いが違います。だからATFには、部品を守り、冷やすほか、クラッチに合う摩擦の性質も必要です。粘りが似ていれば何でもいい、とはならないんです。

ボルトくん

油で滑らせるなら、中のクラッチもずっと滑ってていいの?

ハグルマ先生

変速する途中と、段がつながった後は違いますよ。予定外の滑りが続くと、熱と摩耗の原因になります。

よくある疑問

8速ATは遊星歯車が8組?

段と組数は別です。複数の歯車にクラッチとブレーキを組み合わせ、つなぎ方を変えて各段を作ります。

CVTもトルクコンバーター付きなら多段AT?

発進装置が同じでも、変速部分は違います。プーリーで比率を変えるCVTと、歯車で段を作る多段ATは別です。

ATF交換で変速不良は全部直る?

油だけでなく、摩擦板、油圧、制御、電源も原因になります。交換すべきか、どう整備するかは、診断と車の指定で決めます。

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参考資料

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この記事を書いた人
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ハグルマ先生

メカニズモ編集長

2016年より自動車業界に携わり、輸入車ディーラーや中古車販売店などで実務経験を積む。

自動車専門ウェブメディアの運営にも携わり、業界で培った知識と講師としての経験を活かしながら、車の構造や部品、メンテナンスに関する情報を分かりやすく発信している。

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