クラッチペダルはないのに、中の作りはMTに近い。そんな変速機がAMTです。運転手の足と手がしていた仕事を、誰に任せたのか見ていきましょう。
クラッチペダルがなくても、中ではクラッチが働く

三菱4G63用の製品例。中心の溝付き穴がスプラインで、外側に摩擦部分があります。四つの摩擦部分を持つこの形が、すべての乗用車の標準形状ではありません。Clutch disc.JPG — 100yen 11:57, 1 October 2006 (UTC) / 出典 / CC BY-SA 3.0

1992年のŠkoda Favorit用変速機を一部組み立てた状態。歯車を収める軸と、ギア選択に関わる棒・フォークが見えます。全段の動力経路を示した分解図ではありません。Manual synchronized gearbox.jpg — Oldřich Lebeda / 出典 / CC BY-SA 3.0
変速機は、エンジンからタイヤへ伝える回転の速さと力を変える装置です。その入口で、回転をつないだり切ったりするのがクラッチ。MTでは運転手が足と手でこの二つを操作しますが、AMTではモーターや油圧で動く装置へ任せます。その操作役がアクチュエーターです。
土台がMTに近いからといって、クラッチを使わず変速しているわけではありません。一般的なシングルクラッチ式では、変速中に力をいったん切る時間があります。それが、変速の感触にも関わっています。
普通の乗用AMTには、運転手用のクラッチペダルはありません。自動モードなら、主にアクセルとブレーキで運転できます。でも中ではクラッチを切り、ギアを選び直すので、MTと共通するところがあります。
ボルトくん
中に、クラッチを踏むロボットがいるの?
ハグルマ先生
人の足の形をしているわけではありませんが、代わりに操作する装置が働いています。考え方としては近いですよ。
装置が、手と足の代わりに操作する

Aisin MC5の外観例。Suzuki AGSの内部構造を示す写真としては扱っていません。Aisin MC5 transmission.jpg — TTTNIS / 出典 / CC0
では、その操作役の中身を見てみましょう。電動モーターを使うものもあれば、電気で調整する油圧を使うものもあります。商用車には空気の圧力を使う例もあるので、名前だけで動かし方は決まりません。
乗用車の例が、スズキのAGS(オートギヤシフト)です。MTをベースに、電動油圧式の装置でクラッチとシフトを操作する構成です。
| 仕事 | 一般的なMT | AMTの自動変速モード |
|---|---|---|
| クラッチを切る・つなぐ | 運転者がペダルで操作 | アクチュエーターが操作 |
| 変速するタイミングを決める | 運転者が判断 | 制御装置が走行状態から判断 |
| ギアを選択する | レバー操作を機械的に伝える | 変速用アクチュエーターが動かす |
| 変速中のエンジントルクを調整する | アクセル操作などで調整 | エンジン制御と協調して調整 |
車速、アクセル、エンジンと変速機の回転数を見て、両方を合わせて調整します。装置でペダルの代わりに押すだけでは、なめらかにはできません。エンジンの力も合わせる必要があります。
ボルトくん
操作する装置は、どれもモーターなの?
ハグルマ先生
モーターを使うものも、油や空気の圧力を使うものもありますよ。どの方式でも、クラッチやギアを動かす装置と、エンジンの調整を合わせます。
変速中は一度力を切り、次のギアにつなぎ直す
一つのクラッチを使うAMTは、加速中にクラッチを切り、次のギアを選んで、またつなぎます。基本の順番は下のとおりです。細かな重なり方と調整は、製品によって違います。
- 次のギア段を決める:車速、要求される加速、エンジン回転数などから変速を判断します。
- エンジントルク、つまり軸を回す力を下げてクラッチを切る:歯車の結合を切り替えられるよう、伝達中の負荷を抜きます。
- 現在のギアを外し、次のギアを選ぶ:変速用アクチュエーターがシフト機構を動かします。
- 次の段に合う回転数へ整える:必要に応じてエンジン回転数や変速機側の回転を調整します。
- クラッチをつなぎ、駆動力を戻す:クラッチの伝達力とエンジントルクを協調させます。
乗用AMTには、シンクロメッシュで中の回転を合わせるものがあります。ただし、大型商用車まで全部同じとは限りません。歯車をつなぐ基本はMTの仕組みで説明しています。
変速するとき、加速が一息つくのはなぜ?
| 段階 | クラッチ | エンジンから車輪への駆動力 |
|---|---|---|
| 変速前 | つながる | 選択中の段で伝わる |
| ギア選択を変える間 | 切る | いったん途切れる |
| 変速後 | 次の段へつなぎ直す | 再び伝わる |
この表は、基本の動きです。モーターと組み合わせる車では、切っている間の力をモーターが補うこともあります。
一つのクラッチを切る間は、エンジンからタイヤへの力がいったん途切れます。車は勢いで進みますが、加速は短い間弱まります。それが「ひと呼吸置いた」感じや、前後の揺れになることがあります。
MTも力を切りますが、自分で操作するので、その瞬間を予測できます。AMTは同じようにアクセルを踏んでいても、車が段を変えるので、動きの変化が目立つ場合があります。
ただし、全部のAMTに大きなショックがあるわけではありません。つなぐ速さ、エンジンの回転合わせ、変速を決めるタイミングで感触は変わります。同じ条件で比べましょう。
ボルトくん
変速で加速が少し弱くなるのは、壊れてるの?
ハグルマ先生
一つのクラッチを使う方式では、変速中に力が切れる感触はありますよ。ただし揺れの強さは車で違いますし、いつもと違う変化なら点検が必要です。
発進とクリープを支えるクラッチ制御

乾式クラッチの実物例。AMTで使うすべてのクラッチと同一の形や構成ではありません。Zweimassenschwungrad und kupplung aufgeschnitten.jpg — Cschirp / 出典 / CC BY-SA 3.0
発進も、クラッチを少しずつつないで行うものが多いです。半クラッチは、板同士を少し滑らせながら力を渡すことです。回るエンジンを、まだ止まっているタイヤ側へ急につながずに済みます。この仕事を、車の装置がやっています。
アクセルを踏まなくても、ゆっくり進むクリープを作る車もあります。スズキのAGSがその例。クリープがあるから、トルコンが付くとは限りません。
進む強さ、ブレーキを踏むときのクラッチ、坂道発進の補助は、車によって違います。ほかのAMTと同じと思い込まず、説明書を確認しましょう。
坂道で止まるときは、ブレーキで保持する
| 場面 | 受け持つもの | 確認すること |
|---|---|---|
| 停止状態の保持 | ブレーキ | クリープだけで止まれるとは限らない |
| 発進 | クラッチ制御とエンジン | 坂道発進補助の有無と使用条件 |
| 過熱警告が出たとき | 車種ごとの保護・冷却の手順 | 表示と取扱説明書の指示 |
坂でクラッチを滑らせて止め続けると、回転差が熱になります。停車はブレーキで保持し、アクセルで前へ押して後退を打ち消し続ける操作は避けます。クリープだけで坂を止まれるとは限りません。
高温の警告や保護の制御が出たら、安全な場所で、表示と説明書に従います。冷やす間のギアやエンジンの扱いは車ごとに違うので、共通の自己流手順にはできません。
ボルトくん
クリープがあれば、坂でも後ろに下がらないの?
ハグルマ先生
それだけで止まれるとは限りませんよ。ブレーキを使い、坂道の補助も、説明書どおりに使いましょう。
MTの構成を生かしながら、操作の負担を減らす
完全につながった走行中は、歯車とクラッチで直接力を渡します。MTに近い中身を生かし、重さ、大きさ、費用、伝えるときのむだを抑えながら、自動化しやすいのが採用する理由です。
発進や渋滞で、何度もクラッチを踏まなくてよいのも特徴です。手動モード付きなら、クラッチは車に任せ、自分で変速の指示を出せます。
ただ、中がMTに近ければ、燃費も修理費も必ず有利とは限りません。動かす装置、センサー、制御が増え、クラッチ交換や学習も必要になります。ZFの自動クラッチシステム解説も、アクチュエーターの不調を説明しています。
ボルトくん
MTに機械を付けたなら、修理も安く済むの?
ハグルマ先生
一律には決まりませんよ。クラッチのほかに、動かす装置、センサー、制御の点検と調整が必要なこともあります。
DCTとの違いは、次のギアを準備する経路にある

Lexus LFAの駆動系展示。Aisin AI SA6系の6速ASGを使う例で、二系統クラッチのDCTとは区別します。Lexus LFA 031.JPG — Tennen-Gas / 出典 / CC BY-SA 3.0
一つのクラッチのAMTは、切ってから次を選びます。DCTは、奇数段と偶数段の道を二つに分け、片方で走りながら、もう片方で次を用意できます。
DCTは、用意した側へクラッチの力を受け渡すので、途切れを小さくしやすいです。その代わり、二つの道とクラッチを合わせる調整が必要です。板の数だけでなく、軸と歯車の並びも違います。
セミオートマという名前も、クラッチだけ自動のもの、手動モード付きの自動変速機など、意味が違うことがあります。迷ったら、クラッチとギア選択を、それぞれ人か機械かで確認しましょう。
ボルトくん
AMTの板を2枚にしたら、DCTになるの?
ハグルマ先生
二つのクラッチと、二つのギアの道が必要ですよ。次を用意できるよう、軸や制御も変わるので、板を増やすだけではありません。
ハイブリッドでは、変速中の力をモーターで補う例もある
変速で力を切る間に、モーターが補う車もあります。スズキが2016年に発表したソリオのハイブリッド仕様は、AGSと走行用モーターを組み合わせた例です。
この場合、エンジンの力が切れることと、タイヤへの合計の力が切れることは別です。ただし、適した場所にモーターを組み合わせた例で、全部のAMTやマイルドハイブリッドが同じ働きをするわけではありません。
ボルトくん
クラッチを切ってても、モーターが進めてくれるの?
ハグルマ先生
そういう組み合わせもありますよ。ただ、すべてのAMTやマイルドハイブリッドに付く機能ではありません。
摩耗に合わせ、クラッチがつながる位置を調整する
クラッチの摩擦材が減ると、装置の位置と、力を渡し始める位置の関係が変わります。それを覚えて、調整し直すAMTもあります。
だから交換後も、付ければ終わりとは限りません。学習が要るか、どう行うかは車ごとに違います。一方、機械の不具合まで、学習だけで必ず直せるわけではありません。
ボルトくん
クラッチを新品にしたら、制御はそのままでいいの?
ハグルマ先生
つながり始める位置などを調整する場合がありますよ。その車の手順で、部品と制御の両方を合わせます。
よくある疑問
AMTとトルクコンバーター式ATは同じ?
自動で操作する点は似ても、中身は違います。ここでのAMTは、MTに近い歯車と、発進用の摩擦クラッチを自動で動かします。
AMTにクリープはない?
クリープ付きもあります。あるかどうか、強さ、止まるときの制御は、その車の仕様で確認します。
AMTはクラッチ板を二枚にするとDCTになる?
二つのクラッチとギアの道が必要です。板を増やすだけでは、次の段を用意できる仕組みにはなりません。
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